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第24話 熱を帯びて…
『え…五色さん、何で泣いてるの?どうかした?』
「大丈夫。何でも無いよ…」
『や、何でも無くないっしょ。ちょ、ちょっと待ってて』
絢也は陽川の鞄を手に取り急いで部屋を出て行くと、玄関口で陽川、絢也と雑談を交わしている淳吾に声を掛ける。
『淳吾、悪りぃけど拓弥を車で俺ん家まで送ってやってくんねぇか?俺は後から行くから。』
「はぁ?俺、民宿の仕事が有るんだぞ。お前ん家なんだから一緒に行けば良いっぺ?」
『今は無理だ。五色さんのトコ行かなきゃ…』
「五色って?ああ、陽ちゃんの助手してるっていう先生か。何か急用なんか?」
『いや…ちょっと…』
「淳吾、車のキーを貸せ。俺が拓弥を連れて行く。」
歯切れの悪い絢也の言葉に陽川が助け船を出すと、淳吾はポケットから車のキーを出して陽川に手渡した。
「じゃあ、俺夕食の仕込みがあるから行くね。」
「ああ。今日から6日間宜しくな。」
淳吾が調理場に姿を消すと、陽川が絢也に向かって手を伸ばし催促する仕草を見せる。
『へ?』
「へ?って、俺の鞄持って来てくれたんだろ?」
『え?ああ、はい。』
「俺が拓弥を送ってくから、お前は用事を済ませたら来いよ。」
『う、うん。陽ちゃん、ありがとう。』
「お前のお袋さんにも会いたかったしな。それに…」
(絢也の慌てぶりを見る限り、瑛太の視界が又モノクロになっているのかも知れない…倭が此処に居ない今、本来なら俺が傍に居るべきなんだが、絢也には少し心を許してるみたいだしな。一応、倭にも連絡しておいた方が良いな…)
『何で俺をジッと見てるの?』
「いや…彼奴が落ち着く迄、傍に居てやってくれ。」
『う、うん。』
「あのさぁ〜。さっきもそうだけど、皆んな俺に意見は求めない訳?」
「拓弥、先に行くのが嫌なら調理場に行って淳吾の手伝いでもしてるか?」
「いえ。丁重にお断りさせて頂きます。陽ちゃんに付いて行きます。」
「ふっ。よし、行くぞ。絢也、また後でな。」
陽川が拓弥を連れ立って行くのを見送ると、絢也は踵を返し早足に瑛太の元へと戻る。
『五色さん。遅くてなってごめん。』
「わざわざ戻って来なくて良かったのに…」
『でも、気になったから。』
「大丈夫って言ったろ。」
強がって見せてはいたが、彼の目元には涙の後が残っていた。
『五色さん、俺を見て』
「…嫌だ。」
不安な気持ちを気取られまいと、外方を向こうとする瑛太だったが、絢也の両手に頬を包まれて其れは阻まれてしまう。
『五色さん…瑛太さん。さっき、すぐるさんって言ってたけど…』
「すぐる…さん…?」
『うん。その人と、今、貴方が泣いていた事と何か関係が有るの?』
「知らない…」
『え…でも…』
「知らないってば!!はぁはぁ…うっ…」
『ちょっ、瑛太さん大丈夫?』
興奮したと思えば、直ぐ不規則な呼吸をし始める瑛太に驚き、落ち着かせようと絢也は包み込む様に彼を優しく抱き締めた。
「はぁはぁ…はぁ…」
『大丈夫、大丈夫だよ。』
「知らない…そんな…俺は…」
『うん。分かった、分かったから、もう何も聞かないよ。』
暫くして瑛太の呼吸が大分落ち着いて来たが、絢也は抱き締めている腕を解くことはしなかった。胸元に頬を擦り寄せ、自分に身を預けてくれる瑛太に愛おしさが込み上げ、額に口付けを落とす、次は瞼へ、そして涙で濡れた頬へ唇を這わせると、彼の身体がふるりと震える。
『瑛太さん…』
「ん…?」
『キス…しても良い?』
「……」
『嫌だよね…ごめん、俺、調子…んんっ』
最初は何が起きたのか理解出来なかった。
くちゅっ…ちゅ…くち…
けれど、唇の感触と舌を絡め合う音で、瑛太にキスをされ自分が彼の愛撫に応えているんだと気付いた瞬間、頬が熱くなった。息が苦しくなる程咥内を貪り、口周りが互いの唾液で艶めく。
「ふっ…はぁ…はぁ…」
瑛太の艶めかしい声が脳内を駆け巡り、絢也の下肢は次第に熱を帯びていった。
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