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第25話 complication*
生乾きの磯の匂いは瑛太のノイズを消していく。
悲しくて、虚しくて、色と共に閉じ込めていた記憶が開かれていく。
それは痛みを伴う。瑛太はただ、出会ったばかりの武骨な手で、逞しい腕で支えられているだけなのに不思議と「大丈夫」と思えた。
シャツの裾に侵入してくる手が満遍なく瑛太に触れる。口内は絶えずにキスを交える。密着すれば絢也が徐々に興奮していることもわかった。
「え、た…さん………」
「ん…な、に……んぅ…」
「無理、だ、から……キス、だけ、とか…」
「ん…もっと……んん…」
キスの合間に会話を交わす。海水をかぶり冷えていた絢也の体温は上昇する一方。
(海の、匂い…ゴツゴツした手……世界が、綺麗に……映ってる…)
瑛太にとって色のある情交は、喪 ったあの日を境に無くなっていた。
(静海くん は、違うのに…傑 さんじゃないのに…)
「瑛太さん…」
「ん…」
やっと唇を解放した。絢也の顔も真っ赤になって、額からは汗が滲み出て、目もオスの色を含んでることが瑛太に見える。絢也は徐々に、優しく、瑛太を床に押し倒すと、息を荒げ瑛太を見おろして、瑛太の心臓に触れる。
「ここ…痛い?」
瑛太は触れられた途端にドクンと心臓が跳ねた。そして、どうしてだろうか、感情の涙が止まない。
(甘えちゃいけない…流しちゃいけない………傷つけてはいけない…)
「痛いよ……ずっと…痛い……」
(情けない…まるで子供じゃないか…)
瑛太の美しい顔が涙で濡れて、真っ赤に染まって、絢也の理性はボロボロと剥がれる。
「どうしたら、痛くなくなる?」
「わか…ん、ない……けど……」
「なんで…キスしたの?俺、その気になってもいいの?」
「あ…あの……」
「瑛太さん……」
絢也の顔が近づいて、唇が瑛太の耳に触れる距離。そして吐息さえも瑛太の鼓膜を震わす。
「俺、瑛太さんが好き………だから、触りたい」
――俺だって、瑛太のことが好きだから触りたいんだよ
――傑さん……「触 っ て 」
瑛太は切なく絢也に名前を呼ばれながら、シャツのボタンを外される。夏だから下には何も着ていなかったのですぐに晒されるのは男にしては細くてしなやかな胴体。次にベルトに手をかけられて、瑛太は目を細めた。
「しず、み…くん……ごめん…ごめん……」
まるで絢也の好意を利用しているようで、瑛太はグズグズと泣き始める。絢也はまるで宥 めるように瑛太の目尻を舐める。
「いいよ…俺が勝手にやってることだから……」
「ぅう……け、どぉ……俺、は…最低だ……」
「最低でも何でも、今は瑛太さんを嫌いになれない」
「静海くん……ごめん、なさいぃ……」
絢也がまた口づけをすると、瑛太は絢也の首に腕を回して縋る。その間に瑛太はベルトを外されて、カラーパンツのジッパーも下げられた。
「瑛太さん、俺のも、触って欲しい…」
「あうぅ……ん…」
性急に絢也は自分の怒張したモノを取り出した。瑛太がその要求に答えると絢也は柔らかく笑って「ありがとう」と呟いた。そして絢也も瑛太の勃ち上がったソレをゆるゆると刺激し始める。
「あ、はあぁ…」
「んん…ンァあ……し、ず…み、くんん…っ」
「何?」
「もっと…して……いいか、らぁ…っ」
倭の激しい愛撫が日常となっていた瑛太にとって優しいだけの刺激は物理的には物足りなかった。なのに、心は不思議と満たされていく。
――なぁ、瑛太。海ってすげーと思わねぇか?どんなに大きくて強い生き物でも海を前にすればちっぽけなんだ。
――俺は怖いと思うんだけど…。
――怖くもあり、優しくもあるんだ。五色先生もそうだろ?
――お父さんが?うーん…そうかなぁ?
――お前にはまだわかんねぇかもな。見てみろ、この海も綺麗だろ。
「あ、あぁ、イっちゃ……んんんあっ!」
「俺、も…あぁっ!」
2人はほぼ同時に相手の掌に熱をこぼした。「はぁ、はぁ」と呼吸を整えながら絢也は瑛太の目を見つめながら訊ねた。
「瑛太さん…これ以上は……」
「…まだ……硬い…」
そっと触られた絢也のソレはまた反応した。
「だけど、俺…わかんないし……」
知識も経験もない絢也はこれ以上の行為で瑛太を傷つけることが怖かった。だが瑛太は、熱を欲した。パンツも下着もはしたないと思いつつ自ら全て脱ぐと、自分の精液で汚れた絢也の手を後ろに導く。
「これで…ナカ……ほぐして…」
「え……」
「ちゃんとしないと…静海くんも、痛いから……」
導かれるまま、絢也の濡れた中指は瑛太の秘部に飲み込まれた。
――なぁ、瑛太…大丈夫か?
――ん……だいじょ、ぶ…
――我慢するなよ…瑛太…
「 痛 い と き は 痛 い っ て 言 っ て … 瑛太 さん 」
(重なる……重ねちゃいけない、のに……ごめんなさい、静海くん……傑さん…)
拙 い動きなのに、まだ1本の指なのに、瑛太はすっかりと蕩 けてしまっていた。
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