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第28話 写真の彼。

母に手渡された写真に目を落とすと、大人の男性一人に、自分の年端と余り変わらない男性三人が写っていた。 「ほらっ。一番左端の人が五色基裕先生さね。アンタ本当に覚えとらんの?」 『なぁ…こん人の隣に立っとるのが息子さん?』 「ほうよ。息子の瑛太君、一番右端が陽川君よ。」 ふと、瑛太が自分に話してくれた過去が脳裏を過る。 ー高校生の時に両親が死んでさ…その日から目がおかしくなったんだよー 『お袋、五色さん、、瑛太さんの両親っていつ頃亡くなったんだ?』 「先生が亡くなった時の事覚えてるん?」 『いや…陽ちゃんから聞いた。』 瑛太から聞いたとは言いづらく、咄嗟に嘘を付いた。 「アンタがまだ十歳やったかねぇ〜。海で大時化に見舞われて亡くなりはったんよ。そん時息子さんは高校生で、御両親を一度に亡くして憔悴しきりだったわ。」 (イルカが大量死したのは、其の翌年だ。瑛太さんもこの村で心に深い傷を負ったのか…) 『…瑛太さんと陽ちゃんの間にいる人は誰?』 絢也が写真の中で瑛太の隣に立っている男性を指差すと、祐正が背後から身を乗り出した。 「ああ…多分、五色先輩と噂になってた人だな。まぁ、本当のところは分からねぇけど。こん人も大時化の時に亡くなったんだべ。」 『亡くなった…』 写真の中で、男性と嬉しそうに微笑みを交わし合う瑛太を、絢也は複雑な思いで見つめた。 (こんなに幸せそうに笑う瑛太さんを俺は知らない。今の彼とはまるで別人みたいだ。まさか…この人が傑さん?) 瑛太が口にした名前を追い払う様に被りを振ったが、払拭されるどころか益々疑念が湧き上がってくる。 『アニキ、こん人の名前知ってるか?』 「名前迄は知らねぇが、陽ちゃんに聞けば分かるんじゃねぇか?先生の元でこん人と一緒に研究してた筈だ。」 『…そうか。』 (瑛太さんの過去を探る様な真似をしても良いのか?其れに、陽ちゃんに尋ねたところで教えてくれるとも限らない。) 絢也は悩んだ末にすくっと立ち上がった。 『お袋!俺、あさみ屋に行ってくる!』 「久しぶりに帰って来たと思ったら、急にどうしたん?」 『ちょっと急用なんだ。アニキ、車出してくれ!』 「はぁ?もう酒呑んじまったよ。お前免許持っとるべ?行くなら一人で行けよ。」 『分かった!車のキーをくれ!』 「ちょっ!絢也、俺は?!」 『お前はアニキと呑んでてくれ。直ぐに戻る。』 車の鍵を手に取り、足早に去って行く絢也の後ろ姿を拓弥は呆然と見送る中、祐正が空のジョッキに並々と日本酒を注ぐ。 「ほれっ、拓弥呑むべぇ。」 「へ?あ、の、コレってビールのジョッキですよね?」 「だから?」 「いやぁ~。いくら何でも此の量は…」 「ぁあっ?!まさか俺の注いだ酒が呑めねぇとかぬかすつもりか?!」 「は?い、いえ、滅相も無い。頂きますです。」 「よぉしっ!お前ん事気に入ったべ。朝まで呑み明かすぞ!」 「はい…」 (気に入られたくねー!!はぁ…俺、此の町が嫌いになりそう。)

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