28 / 42
第28話 写真の彼。
母に手渡された写真に目を落とすと、大人の男性一人に、自分の年端と余り変わらない男性三人が写っていた。
「ほらっ。一番左端の人が五色基裕先生さね。アンタ本当に覚えとらんの?」
『なぁ…こん人の隣に立っとるのが息子さん?』
「ほうよ。息子の瑛太君、一番右端が陽川君よ。」
ふと、瑛太が自分に話してくれた過去が脳裏を過る。
ー高校生の時に両親が死んでさ…その日から目がおかしくなったんだよー
『お袋、五色さん、、瑛太さんの両親っていつ頃亡くなったんだ?』
「先生が亡くなった時の事覚えてるん?」
『いや…陽ちゃんから聞いた。』
瑛太から聞いたとは言いづらく、咄嗟に嘘を付いた。
「アンタがまだ十歳やったかねぇ〜。海で大時化に見舞われて亡くなりはったんよ。そん時息子さんは高校生で、御両親を一度に亡くして憔悴しきりだったわ。」
(イルカが大量死したのは、其の翌年だ。瑛太さんもこの村で心に深い傷を負ったのか…)
『…瑛太さんと陽ちゃんの間にいる人は誰?』
絢也が写真の中で瑛太の隣に立っている男性を指差すと、祐正が背後から身を乗り出した。
「ああ…多分、五色先輩と噂になってた人だな。まぁ、本当のところは分からねぇけど。こん人も大時化の時に亡くなったんだべ。」
『亡くなった…』
写真の中で、男性と嬉しそうに微笑みを交わし合う瑛太を、絢也は複雑な思いで見つめた。
(こんなに幸せそうに笑う瑛太さんを俺は知らない。今の彼とはまるで別人みたいだ。まさか…この人が傑さん?)
瑛太が口にした名前を追い払う様に被りを振ったが、払拭されるどころか益々疑念が湧き上がってくる。
『アニキ、こん人の名前知ってるか?』
「名前迄は知らねぇが、陽ちゃんに聞けば分かるんじゃねぇか?先生の元でこん人と一緒に研究してた筈だ。」
『…そうか。』
(瑛太さんの過去を探る様な真似をしても良いのか?其れに、陽ちゃんに尋ねたところで教えてくれるとも限らない。)
絢也は悩んだ末にすくっと立ち上がった。
『お袋!俺、あさみ屋に行ってくる!』
「久しぶりに帰って来たと思ったら、急にどうしたん?」
『ちょっと急用なんだ。アニキ、車出してくれ!』
「はぁ?もう酒呑んじまったよ。お前免許持っとるべ?行くなら一人で行けよ。」
『分かった!車のキーをくれ!』
「ちょっ!絢也、俺は?!」
『お前はアニキと呑んでてくれ。直ぐに戻る。』
車の鍵を手に取り、足早に去って行く絢也の後ろ姿を拓弥は呆然と見送る中、祐正が空のジョッキに並々と日本酒を注ぐ。
「ほれっ、拓弥呑むべぇ。」
「へ?あ、の、コレってビールのジョッキですよね?」
「だから?」
「いやぁ~。いくら何でも此の量は…」
「ぁあっ?!まさか俺の注いだ酒が呑めねぇとかぬかすつもりか?!」
「は?い、いえ、滅相も無い。頂きますです。」
「よぉしっ!お前ん事気に入ったべ。朝まで呑み明かすぞ!」
「はい…」
(気に入られたくねー!!はぁ…俺、此の町が嫌いになりそう。)
ともだちにシェアしよう!