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第30話 秘かな想い。

勢いに任せて此処まで来ちゃったけど、どうすっかなぁ。 陽ちゃんから話を聞きたいけど、恋人でも何でも無い俺が瑛太さんの過去を尋ねたら変に思われるかな。 けど、気になる… 『杏奈、あのさ…』 「……」 返事が無い。そういえばさっきからずっと黙ったままだ。急に散歩とか言い出すし。 『何か有ったのか?』 「…何か有ったのは絢也の方じゃない?最近のアンタ変よ。」 『変?何処が?』 「好きな人でも出来た?」 ぐっ。鋭い… 『まぁ…な…』 「え?!ホントに?!」 何でそんな驚いた顔してるんだ? 『何だよ。俺に好きな人が出来ちゃ悪いのかよ。』 「好きな人って誰?」 名前出したらマズイよな。俺の一方的な片想いだし、瑛太さんに迷惑掛けたくない。 『言いたくない。』 「言いたくないって事は、私も知ってる人なのね…」 ゔっ。杏菜が知らない人って言えば良かった… 『俺の片想いだから、これ以上は聞くなよ。』 「なんだ、片想いなのね。」 何だ?急に笑顔になった。 「告白しないの?」 『好きって自覚したばっかだし、そんな直ぐには…』 「好きならさっさと告白しちゃえば?ヘタレ童貞には無理かぁ。」 『は?童貞とか関係無いし。ってか童貞じゃねーし!』 「……え?」 やべっ!言っちまった! 「それって…まさか…」 『これ以上聞くなって言ったろ。もう民宿に戻ろうぜ。』 バ、バレたかな?大丈夫だよな? 歩き出し暫くしてから杏菜が隣に居ない事に気付き、絢也は振り返った。 杏菜は同じ場所にまだ留まっている。 『杏菜~。早く来いよ。』 何で動かないんだ? 『おいっ。行くぞ。』 「……」 彼女の元へ戻り声を掛けた。 『杏菜?』 「…に決まってる。」 『え?何て?』 「無理に決まってるって言ったの!歳上の彼にガキのアンタが相手にされる訳ないじゃん!それに、あの人綺麗だけど男だよ?分かってんの?」 『男って…』 「五色さんでしょ?」 バレてるし!!しかも何か怒ってるし! 『な、な、何で分かったんだ?』 「…あれだけデレついてたら気付くわよ。」 『内緒にしてくれよな。』 「何で?相手が男の人だから?」 『ちげーよ!性別とか関係ねぇよ。そりゃ、俺も最初は戸惑ったけど…好きになった人が偶々男だっただけだし。』 「じゃあ、何よ?」 『さっき言ったろ?俺の片想いなんだよ。其れに…』 「其れに?」 『あの人には恋人が居るんだ。』 「はぁ??恋人が居るのにアンタと寝たって事?!」 あ、また余計な事言っちまった。 『と、とにかく、この話はこれでお終いにしてくれ。』 「ちっ。」 『ちって…』 怖いんだけど。 「今日のところは勘弁してあげるわ。私もこれ以上聞くのは辛いし…」 『辛い?辛いのは片想いしてる俺だけど?』 「はぁ…アンタってホント鈍いわよねぇ。何か悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃった。」 『鈍い?意味が分からん。』 「もう良いわ。さっさと民宿に戻るわよ!」 杏菜の秘かな想いに気付かないまま、彼女に再び手を引かれ民宿へと戻って行った。

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