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第36話 貴方が好きです!

ぽた…ぽたり…滴り落ちた雫が瑛太の頬を濡らす。 其の雫が己を組み敷き無理やり行為に及んでいる恋人の瞳から溢れ出た涙だと気付き、瑛太は息を呑んだ。 嫉妬はしても弱味など決して見せなかった倭。顔をくしゃくしゃにし、子どもの様に泣いている姿に胸が軋む。 彼の顔を引き寄せ涙を舐め取ると、息が苦しくなる程に強く抱き締められた。 『ごめんな…』 「倭は何も悪くないよ。俺が…」 絢也に惹かれてしまったのがいけないんだ。 其れを口にしてしまえば、倭をもっと苦しめてしまう。同じ痛みを分かち合い支え合ってきた。家族であり愛しい恋人。 『お前が居なくなったら、俺は今度こそ独りになってしまう。』 「うん。分かってるよ。俺も同じだから。」 髪を撫でると、倭の瞳から再び涙が溢れる。 『瑛太…俺を捨てないで…』 喉から搾り出す様な掠れた声で懇願され頷く以外に選択肢は無かった。倭を捨てるなんて事、俺には出来ない… 彼の熱く滾った雄が最奥に届くように腰を動かすと、再び律動が開始された。 秘部内で蠢く雄が瑛太の熱を引き出す。鈴口から透明な液が流れ、揺さぶられる度に射精感が高まっていく。 「はぁっ、んっ…もっと、もっと激しくして…」 『はぁはぁ…瑛太…』 絢也にこれ以上惹かれたくない。 全て忘れさせて… 瑛太は上半身を起こし倭を押し倒すと、戸惑う彼を尻目に、腰上に跨り一心不乱に腰を振った。 肉が打つかり合う音と、太い幹が内壁を擦る度に発する卑猥な音が、室内に鳴りわたる。 「あっ、あっ、気持ち良…」 『うくっ…瑛太…はぁ…』 速度を早め自らの手で己の雄も刺激する。尿道から精液が迫り上がり、カリ首を擦ると熱が体外へ放出された。後孔をきゅっ締め付けた途端に、倭も絶頂を迎え瑛太の秘部内にどくどくと白濁を吐き出した。 脱力仕切った身体を倭に引き寄せられ、乱れた息を整えながら胸元に顔を埋める。彼の鼓動を感じながら瑛太は瞼を閉じた。 月明かりが窓から差し込み、瑛太は目を覚ました。いつの間にか寝入ってしまったようだ。 隣で倭がスースーと寝息を立てている。余程気を張っていたんだな。無理もないか… 掛け布団を捲ると、汗や体液で汚れていた身体がさらっとしている事に気が付く。自分が寝ている間に倭が綺麗にしてくれたのだろう。 彼の寝顔を眺め、穏やかな表情にほっと息を吐く。無性に外の空気が吸いたくなり、倭を起こさぬように足音を忍ばせ部屋を後にした。 庭に出て備え付けのベンチに腰を下ろす。生暖かい風に乗って以前よりも騒がしくない蝉の鳴き声が耳元に届いた。夏の終わりが近づいている。 『瑛太さん?』 視線を向けた先に瑛太が立っていた。 何故このタイミングで目の前に現れてしまうのか。 『こんな時間にどうしたの?』 「少し風に当たりたくなって。絢也君は、どうして此処に?実家に戻らなかったの?」 『…気になったから。』 何が気になったかなんて聞けない。答えは分かっているから。 「そう…」 『隣、座っても良いかな?』 拒否したら変に思われてしまう。普通にしなきゃ。 「どうぞ。」 『もう、大丈夫なの?』 「少し寝たら良くなったよ。迷惑掛けてごめんね。」 『そう…良かった。』 「うん。」 『あのさ…倭さんとは大丈夫?』 「大丈夫って?」 『あの人、怒ってる気がしたから。』 「大丈夫だよ。ちゃんと仲直りしたから。」 『まさか…あの人と寝たの?』 怒りを含んだ声、刺すような視線。胸が苦しい。逃げてしまいたい。だけど、いわなきゃ… 「寝たよ。」 『どうして?!』 「絢也…静海君。俺達の間に有った事は忘れて欲しい。」 『…は?何でそうなるの?!』 「倭と別れる事は出来ない。だから…」 『嫌だ!!』 「んんっ。」 塞がれた唇から彼の想いが流れ込んでくる。抱き締められ、心が激しく揺さぶられた。このまま彼に身を任せる事が出来たなら… 「ごめん。」 『俺は貴方が好きです。』 「君の元へは行けない。」 『どうして?瑛太さんも俺に惹かれてるよね?勘違いじゃない筈だ。』 「…そうだね。確かに、あの瞬間は静海君に惹かれた。だけど、だけどね、無理なんだ。俺は倭を独りにする事は出来ない。」 『瑛太さん…』 瑛太…俺を捨てないで… 倭の声が頭の中を駆け巡る。駄目だ。彼をこれ以上裏切れない。だから、此処で終わりにしよう。 絢也の瞳を真っ直ぐに見つめ、別れの言葉を紡ぐ。 「静海君、さようなら。」 『俺は貴方が好きです!絶対に諦めない!!』 瑛太は振り返る事なく、恋人が待つ部屋へと戻って行った。

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