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第37話 Dawm of the storm

本気の告白も背けられた。 瑛太の小さな背中を追うことはできたはずなのに、絢也はそれをしなかった。 行き場のない感情はベンチを殴る拳に込められて、硬い木材で関節はヒリヒリと痛む。 「瑛太、さん………っ!」 一筋だけ悔し涙を流して、絢也はふと夜空を見上げた。 「雲が、多い…」 スン、と辺りの匂いを嗅いだ。 「雨の、匂い…」 辺りは潮の匂いでいっぱいだが、絢也はわずかな潮以外の匂いも感じ取ることができる。 (しまった、スマホ忘れた…) ゴシゴシと目をぬぐいながら立ち上がり、ポケットに忍ばせていた車のキーを取り出す。ため息を吐きながらこの場をあとにすることを決めた。 駐車場に着いて、ピピッと車のロックを解くと同時に民宿の門の戸が開いて、忙しく淳吾が出てきた。 「おー、絢也、帰るんか?」 「おう、悪かったな騒いで」 「別にしばらくはお前らだけだから気にすんな……それより…」 淳吾も空を見上げて不安そうな顔をする。絢也は真っ暗な海を真っ直ぐに見て「んだな…」と呟く。 「まだ10時前だけど、もう寝とけ。漁師の朝は早ぇだろ」 「わがってる……匂いがおんなじだ」 絢也の車が実家に到着したのはそれからわずか10分後、風が強くなり波の音が一層うるさく町に響いた。 ガタガタ ガタガタ 午前3時、窓が揺れるほどの強風が町を襲う。 瑛太は揺れる窓をボーッと眺めていた。 真っ暗だけど、高波になってることも音でわかる。 ズキズキとまだ頭が痛み、倭が瑛太用にと持ってきた市販の鎮痛剤を机の上から取る。すると机に放置してたスマートフォンがメッセージを受信した。 _ 俺の部屋に来い。調査用の服に着替えて雨合羽持参で。 陽川からのメッセージだった。絵文字も何もないシンプルな命令文に瑛太は背筋が凍った。 言われた通りに部屋着から調査用の運動着に着替えて、財布とスマホを防水ポーチに入れ、雨合羽を持つと、倭を起こさないようにそっと部屋を抜け出した。 ドアを開けると人影がぞろぞろとあった。生徒が全員陽川の部屋の前で待機していたのだった。 「あ、五色さん、おはようございます」 「五色さん、もう大丈夫ですか?」 昨日倒れたきりにしか会ってない生徒たちから心配され、瑛太は申し訳なく思い「ごめんなさい」と謝った。 陽川の部屋の戸が開いて、出てきたのは陽川と絢也の兄の祐正だった。 「いいか、これから_」 不安そうな表情をした陽川の言葉を遮るように祐正の携帯電話から着信音が鳴る。祐正は「チッ」と舌打ちをして電話に出ると、乱暴な口調で応対する。 「んだ………わがっだ、今連れてっから……絢也と拓弥は?………絢也は平気か?………ああ、すぐ向かう」 パタン、と携帯電話を閉じると祐正はゼミ生たちに話した。 「これから海岸さ行く。もうクジラが3、イルカが10は上がってる。生きてるのは水かけてトラック載せて保護施設さ運ぶ、ちんたらしたら残らず死んじまうからな、頼んだぞ」 生徒たちは重く返事をした。 「イルカが、死んじゃう……」 瑛太の近くにいた杏菜は顔を青くして涙声で呟いた。それに気がついた陽川は杏菜に近づいて肩をポンと優しく叩く。 「これがこの海の現実だ。しっかり見ておけ」 陽川の声色はまるで。 (傑さん……父さん………)

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