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第40話 合図。

何も言えず黙っていると、絢也がふっと笑顔を見せた。 「ごめん。責めてる訳じゃないんだ。だから、そんな辛そうな顔をしないで」 「静海君……」 「唯、知りたかった。瑛太さんにとって俺って何なのかなって……倭さんの事も……」 そこまで言って言葉を切った。瑛太の過去を、本心を聞いたところで何になる。自分は選ばれなかった。其れが答えだ。 「ごめん」 「謝らないでよ。余計に惨めになる。振られてんのに未練がましいよな。ははっ」 絢也の渇いた笑いが泣き声に聞こえる。気丈に振る舞おうとする彼の姿が痛々しくも愛しく感じてしまう。 何を言っても言い訳にしかならない。絢也が望む言葉を告げられないなら、彼の想いに応える事が出来ないなら、口を閉ざすべきだ。 だけど…… 「両親と愛する人が突然目の前からいなくなって、彼等が存在しないこの世界が灰色に映るようになった。自分だけが取り残され、後を追いたいとさえ思ったよ。でもね、彼が傍に居てくれたから思い留まる事が出来た」 「倭さん?」 「うん」 「彼も愛する家族を失って辛かった筈なのに、俺を支え愛してくれた」 「家族を……」 「倭は……傑さんの弟なんだ」 瑛太の突然の告白に絢也は驚愕する。 弟……あの人は傑さんの弟だったのか。瑛太さんが彼を独りにする事は出来ないと言ったのは其れが理由なのか? 絢也の心の中にふつふつと疑念が沸き起こる。 「だから別れられないって事?支えてくれたから、愛してくれたから、傍に居てくれたから、けど其れって……依存し合ってるだけじゃない?」 「依存?其れは違うよ。俺も倭を愛している。」 言葉とは裏腹に瑛太の声が震え瞳が揺れる。 「本当に違うって言い切れる?彼の事を本気で愛してるなら、どうして俺を受け入れたの?俺に惹かれたって言ったよね?」 「其れは……」 核心に触れられ、ぐっと言葉が詰まる。 絢也は瑛太の動揺を見逃してやる気は無かった。彼の元へと一歩ずつ歩みを進めた。 床板がギィギィと軋む音が室内に響く。 瑛太の頬に手を這わすと肩がぴくりと震えた。 「瑛太さんの本心が知りたい」 「分からない、自分でも分からないんだ。どうしてこうなってしまったのか……唯……」 「唯?」 「初めてキスをした日、静海君だけに色がついてたって言ったよね。そんな事、初めてだったんだ……」 互いに言葉を発せず沈黙が続いた。窓が強風に煽られガタガタと音を鳴らす。 震える指先で瑛太の唇をゆっくりなぞると、潤んだ瞳が絢也を見つめて来た。 理屈じゃない。彼の熱い視線が合図に感じ、絢也は自身の唇で瑛太の唇を塞いだ。

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