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第2話

尚之と二人で出かける場所はたとえスーパーでも楽しい。 転勤先の買い物といえば錆びれた商店街とスーパーぐらいしかない田舎だった為、ほとんどと言っていいほど引きこもっていた透だが、尚之の為にと思うだけで遠方への買い物さえ気分が上がった。 色取りどりに飾られた街角を恋人達が楽しそうに通り過ぎる。何をプレゼントしても喜んでくれることは、多少張り合いがないとは思っている。 必要最低限のものしかない尚之の私物。最初はすぐに出ていけるように物を減らしているのかと思っていた。それを問えば、 「必要だって思える物だけで充分生活できます。無駄遣いは嫌いです」 ふんわりした外見とは違い、ちゃんと自分を持っている尚之の内面までも透を虜にした。 戦前生まれの祖父母に育てられたせいか物を大切にする。箸一つでさえ透から見れば尚之の宝物のように見えた。 この季節になると尚之の首元を飾るのは透のお古のマフラーだ。出会ってすぐの頃、見てる方が凍えそうな首元に巻いてやってものだった。この八年、尚之はこの季節が来ると透のマフラーを巻いている。 旅行に送り出した時もそうだった。多少値が張るマフラーでも八年も使えばくたびれてくる。大切に使ってくれてるのは嬉しい。モノトーンを好む尚之の洋服には差し色になっている青味を含む紺色のマフラーを嬉しそうに巻いて出掛けた。 「マフラーかなぁ」 行きつけていたセレクトショップに足を向ける。尚之の影響で無駄な買い物をしなくなり、足が遠のいていた店だが久しぶりに行ってみようと目的を持った脚は歩幅を広げた。 「透君じゃん、久しぶりだね」 店の雰囲気とそぐわないドレッドヘアの店主、三谷草(みやくさ)が駆け寄ってくる。 久しぶりと言われる程以上に来ていないはずなのだが、隣にある三谷草の父のテーラーでしかあつらえない透のスーツは数十着になる。それから言えば上得意様なのだが。 「こっちにいつ帰ってきたの?同僚さんが透君は帰ってきたらポストが約束されてるって羨ましがってたよ〜」 そんなことを話す奴は一人しかいないし、ここを教えたのもそいつしかいない。 「そんなことないよ。いつまで経ってもペーペーだから」 そう返しながら、冬物の小物が並ぶコーナーへと脚を向ける。 そこにはニット帽やマフラー、手袋が所狭しと並んでいる。 (ニット帽もいいかもな…) 漆黒の髪に黒目の大きな瞳、伸びた前髪を少し横に流して被る尚之のニット帽は可愛いと断言できる。 それに似合う手袋…きっとマフラーは透のを使うだろうと踏でいる。ニヤける顔を隠しながら 尚之に似合う色を吟味していく。 頭の中はお花畑だ。尚之のことを考えているだけで胸の中は満たされる。フルに五感を働かし顔を緩めながら選んでいった。

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