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第3話
クリスマス本番ともなれば店内はガランとして客はいない。
プレゼントは事前に買うだろうし、今日は恋人達も家族も楽しいイベントの日だけある。
暇なのか三谷草は透に纏わり付くように店主の任務を遂行してる。
「え?透君…そんなの被るの?どう見てもこっちの方が良くない?…ええ?どうしたの?最近趣味変わったの?」
ウザ絡みしてくる三谷草を横目で睨む。何が悲しくてクリスマスイブイブにニット帽を買わなきゃいけないのか…
「ここんとこさ、休みがなかったから今日は恋人のプレゼント買いにきてんの。自分用じゃないから…」
ウゼ…と思いながらもここは尚之のプレゼントの為に敢えて真摯に返した。
「そうだったの?そうだよね…自分用じゃないよね…」
一人で納得しながら陳列棚の下の引き出しを開け、まだ開封していないビニールで包まれた束を取り出す。
「これね、このデザイナーの新作なんだけど…新年から出そうと思ってて…いち早く透君にお見せいたしましょう。イメージ変わってていい感じでさ…またファン獲得の予感よ〜」
この店のウリでもある、各ブースごとに置かれたデザイナーの作品。透はこのデザイナーを好み、スーツ以外の物はこのデザイナーの物が多い。
「ほんとだ、いい感じ…良いところ残して新しくなった感じだ…」
ネットでの販売もしているのだが、透はあえて目で見たものを手に入れたいと思っている。
シンプルなのに製法が丁寧で、made in Japan であるということ。日本製の物が少なくなった日本で、日本の職人の物を使いたいと常々思う拘りがある。「良いものを少し」という奥ゆかしい日本人ならではの考えを持つ尚之の影響を全てに受け、透は目に付いたブルーのニット帽を手にした。
(青紺色のマフラーと一緒につけても違和感のない色。そこに手袋…そうだな…初詣はこれをつけていくのもいいな…)
外にあまり出ない尚之の外出ライフが楽しくなればいい。透はその姿を想像して緩む顔を隣で見ていた三谷草の溜息で正気に戻る。
「透君…幸せそうね…リア充…爆発しろ!だわ。年末年始仕事なのに…」
ボヤく三谷草を横目にサクサクと決めて手渡した。
「プレゼントでお願い。ガッツリ稼いで、休みエンジョイしなよ、な?」
労いの言葉をかければ、ニヤリと微笑む。
「優しいよね、透君は。そんな透君にクリスマスプレゼントをあげるわ!」
チェックカウンターへと向かう三谷草の後を追う。
カウンターに置かれたのは、毎年貰っていた「Tailor miyakusa」と書かれた小箱。親父さんの店の粗品じゃねーかと内心思った隣に、真っ白な箱が置かれた。
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