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第7話

「この部屋で一人…5年間も待たせてごめんな。寂しかったろ?」 この数時間でそんなにも尚之がいないという空虚感に襲われている。その何倍も何十倍もの時間を一人で過ごしていたかと思うと想像をはるかに超える。 「寂しい…そう思ったのは1カ月くらいかな…だってここは透さんが帰ってくる家だし。毎日限られた時間でも顔を見て話できたから。僕も透さんに負けないように仕事頑張ってたしね。ここには透さんの気配や匂いがあって落ち着くし安心できる。一人じゃないんだって…思えたしね」 緩めた手が透の頬を撫でる。冷たい手が体温で解けていくように思えた。 「そうだな。ここは俺たちの家だからな。何したっていんだ。バニーになっても裸で踊っても。尚之が楽しく過ごしてくれたらいんだよ。俺だって、尚之の匂いに酔っていたところだったんだし」 瞳を合わせて微笑み、手を伸ばせば抱きしめたい温もりが手の届くところにある。懐に仕舞い込めばすっぽりと収まる身体に安堵の笑みが漏れる。 「おかえり、尚之」 「ただいま、透さん」 この温もり以外何が必要なんだろう。 癒され、勇気をもらい、活力が生まれる。そうやって二人で生きていこうと決めた。 同じ空気を吸い、同じものを食べ、体温を感じて眠るこの空間は二人だけのものだ。 なら、何をしてもいい。そうこの空間でなら。窓を開ければ外の空気に触れることができる。下を見れば行き交う人々の鼓動が聞こえてくる。なのにここは二人の世界で誰にも邪魔されることはない。 「メリークリスマス。尚之。今年は二人で過ごせるな」 「そうだね。料理作ってくれたんだいい匂いがする…透さんの料理好きなんだぁ」 「ワインも買ってある。きっと尚之が美味しいって飲んでくれるのを選んだつもり。プレゼントもあるんだよ。貰ってくれる?」 そんなことをいちいち言わなくても尚之は喜んでくれる。だが、期待で膨らます表情は透にとって何物にも変えられない至福の賜物。 「嬉しい。透さんありがとう」 「それと…一つお願いしたいことがあるんだ」 「何?透さんが喜ぶこと?」 「…そうだな、嬉しくてどうにかなりそうな気がするけど」 「なんだろ…ちょっと怖いな…」 ソファの下に隠しておいた白い箱を引き出す。その一連の動作を食い入るように見つめている尚之に、少しの罪悪感と大きな期待で頬が緩む。 「先にこれ。クリスマスプレゼント」 ソファの上に置いてあった紙袋を渡すとワクワクした面持ちで紐を解いていく。 「ニット帽…と手袋?」 「この色、尚之に似合うと思うんだ」 コートさえ脱いでいない尚之は嬉しそうに被って見せてくれる。白い肌に映える青。マフラーにも合っている。黒の手袋を嵌めクルクルと手を回して嬉しそうに笑った。 「素敵。透さんありがとう。大切にするね」 きっとこの先、何年もの冬、活躍するだろう。その度可愛い顔を見せてくれると思えばそれだけで幸せを貰える約束をしたようなものだ。 「僕からもあるんだよ」 駆け足で自室に行き急いで戻ってくる。クリスマス特有の包装紙に包まれたものを渡される。 「色々悩んだんだけど…透さんはこだわりがあるから物よりこれかなって…」 その中には四つ葉のクローバーのモチーフがついた封筒が入っていた。

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