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第9話

あ…追いかけたほうがいいのか? もし自分に対しての不信感でこれからの付き合い方を思い悩んでいるとしたら… 慌てて立ち上がり尚之の部屋へと脚を向ける。 人から貰った物を着るのなら、自分が贈った物を着て欲しいと我儘に思う。 あれは一人で過ごし、透がいない寂しさを埋めようとして一人で楽しんでいたんだ。別に自分に見せるためではないこともわかっている。 それでもあんな可愛い格好を見せてくれないなんて…ともう一人の自分と頭の中で押し問答する。 部屋の前に立ち、大きく息を吸った。 「尚之…入ってもいいか?」 「…透さっ!ちょっと待って!」 叫ぶ声が中から聞こえ、またガクリと肩を落とす。 それでもその声には怒りや悲しみを含んでいるようには聞こえなかった。 待てというなら大人しく待つ。それで気持ちを落ち着かせてまた可愛い顔を見せてくれるのなら… リビングに引き返そうと脚を向け、何度もその扉を振り返りながら元いた場所に腰を下ろした。 その時…カチャリとドアが開く音がしてそちらに視線を向ける。 そこには… うさぎの可愛い尻尾をつけ赤いレオタード姿のサンタバニー姿の尚之が姿を見せた。 細くて長い脚に網タイツがフィットしている。トコトコと透のそばに立ち、伸びてきた手を無意識に握り締め立ち上がる。 「可愛い…」 そう呟きながら細い腰に腕を回す。服の厚みの無い身体は裸同様の細さで透の腕の中にすっぽりと収まった。 「僕が着ても似合わないけど…透さんが見たいっていうならいくらでも着るよ。遠慮せずに言って?僕だって…透さんの望み叶えてあげたいんだ…」 尚之はいつも口癖のように「こんなによくしてもらってバチが当たりそう」という。バチなんて当たるようなことはしていない。尚之は出来ること精一杯やってくれている。 透がいつ帰ってもいいように整理整頓されている部屋。気付いた所を工夫し住みやすくしてくれている。 そしていつ帰ってもここに尚之がいてくれることが透を満たしている。 人から貰ったバニー姿にヤキモチを妬くくらいには、尚之の何もかもを独り占めしているという優越感に浸らせてくれる。 「透さんって…コスプレが好きなの?」 確かに前回のバニー姿の尚之を抱いた時、自分でも驚くくらいに興奮したことを思い出す。尚之の綺麗な身体にイメージを壊すようなエロい姿に萌えた。 何故か取り繕えない興奮が押し寄せてきたんだ。 「…そうなんだろうか…今までそんなこと思ったことないんだけどな…尚之が着てるから興奮する…いや、尚之に興奮してるんだけどな」 それは確信している。どうあがいても尚之以外にはそんな感情は起きてこない。 尚之には言わないが、それなりに誘いを受けることはある。 綺麗にメイクで作った顔、整った爪。手入れの行き届いた髪。そんなものには欲情しない。素のままでこれだけ可愛い尚之を見ていれば他のものなんて霞んでしまう。 これが欲目であっても愛しているからそう見えているんだとしてもそんなことはどうでもいい。尚之がいいのだから。 「なんでも…着るよ?透さんが見たいっていうなら…」 「何も着てないのが一番だけどな」 「なっ!…それが一番恥ずかしいよ…」 頬を染め、上目遣いで潤んだ瞳の中に透を求める色を見つける。 その顎を指先で持ち上げしっとりと唇を合わせた。大きな瞳が誘うように閉じていく様を見るのが好きな透は、喉元でクスリと笑い、隙間をこじ開け肉厚な舌をねじ込んだ。

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