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第8夜

「寂しくないですか?」 低いトーンで聞いてくる貴志に戸惑いながら、亘は答えた。 「いつものことだから、平気だよ。僕はクリスチャンでもないしね。普通の休日と一緒だよ」 「…本当にひとりなんですか」 しつこく聞く貴志の真意を測りかねて、亘はコーヒーカップを机に置いて貴志を見つめた。 貴志の目に意地悪な色はなかったが、亘は柔らかく微笑みながら頭を振った。 「クリスマスに僕なんかと付き合ってくれる奇特な人間はいないよ」 「かわいそうな人ですね」 いつものちょっとイラついた尖った口調で言葉を返した貴志に、亘もいつものように少し怯えて言った。 「そ、そうだよね」 無抵抗な亘に心無い言葉を投げつけておきながら、なぜか貴志の方がひどく傷ついた顔をして不機嫌そうに自席に戻っていった。 自分のことが嫌いならいっそ構わないで欲しいのに、気まぐれに絡んできては振り回されることに、亘はほとほと困っていた。 クリスマスをひとりで過ごすなど、群れるのが苦手な自分にはさほど嫌なことではないと思っていた。 だが、日頃は意識していない孤独を貴志に指摘された上に、家族づれやカップルに囲まれた豪華なツリーの電飾に寂しさをことさら照らし出された気がして、テレビの画面の中で、犯人を前に銃を構える刑事の顔がじわっと滲んで来た時、玄関のチャイムがまた鳴った。 鼻をすすりながら、今日は来訪者が多くてチャイムの音に慣れてしまい、スコープを覗くこともなく無防備に玄関を開けると、目の前に大きな花束があった。 真っ赤なバラを何十本もまとめた高価そうな花束で、突然自分の腕に押し付けられて、亘は思わず受け取ってしまった。 「え?何…?」 バラの花束の向こうに、シャンパンのビンを掲げた貴志の顔があった。

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