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第9夜

パーティー帰りらしく、いつもは垂らしている前髪をオールバックに上げて、学校では見ることのないタイトなラインのおしゃれなスーツを着ていた。酒が入っているのか、顔が少し赤い。 「遠藤先生⁈」 「佐伯先生、遅くなってすみません」 「は?」 貴志は、亘に渡した花束を再び取り上げると、シャンパンとともに、靴箱の上に乗せた。 そして、両手を亘の頬に当てると彼の唇に自分の唇をそっと触れさせ、その後思い切り抱きしめた。 しばらくの間、貴志に抱きしめられるままに固まっていた亘が、ようやく我にかえった。 「え、遠藤先生…!どうして⁉︎」 ジタバタして貴志の腕から逃れると、真っ赤になって声を上ずらせた 「寂しい思いをさせてすみません。大学の陸上部のパーティーが思いのほか抜けにくくて」 「いや、そこじゃないから!」 混乱して巻き毛の頭をかき回している亘を貴志は巧みに部屋に押し込み、自分も上がり込んできた。 ネクタイを緩めながら部屋を見回し、食卓にピザやケーキが乗っているのを見て微笑んだ。 怖くなったのか、亘が後ずさりしたのを見て、腕を捉えてまた抱きしめた。 「遠藤先生っ⁉︎」 「あなたが好きです」 「最初に会ったときから、どストライクで。あなたみたいな小さくて華奢なひとが、俺は昔から大好きなんです。でも、俺には困った癖があって」 亘を抱きしめたまま、貴志は言った。 「子どもの頃から、好きな子ができるとからかわずにはいられなかった。気になればなるほどエスカレートして、困った顔が見たくて、結果、最後には嫌われるの繰り返しで。付き合っても、長続きした試しがなかった。」 がくんと貴志の腕の中で亘の身体の力が抜けた。抱きしめられて、固まったまま、垂らしていた両手を貴志の背中に回し、しがみついた。 「よ、良かった〜。君は僕の存在そのものがが嫌なんだと思ってた」 貴志の胸に顔をうずめて、亘は安堵のため息をついた。

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