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第10夜
幼い頃から存在を無視されることはあっても、見るからに無害な亘に対してあからさまな悪意を向ける人間などいなかった。貴志には訳もわからず一方的に嫌われているように思えて、本当に不安だったのだ。
「あなたに嫌われたくない。ガキみたいなことをするのは、もうやめます。ごめんなさい。あなたが好きで、好きで、たまらないんです」
「そっか、君は単なるドSだったんだね。僕のこと嫌いなわけじゃなかったんだ。良かった」
そう言って、能天気に貴志の背中をポンポンと叩いている亘を、貴志はべりっと引き剥がした。
「…佐伯先生、おれを許してくれるんですか」
「許すも何も、男の子にはよくあることだよ」
でもやりすぎたらだめだよ、と先生のようなしたり顔で言う亘を、少し上気した真面目な顔で貴志はじっと見つめて言った。
「あなたと付き合いたい。恋人同士になりたい。」
ストレートに告白されて、亘は今までとは別の意味で戸惑った。
「…小さいのは認めるけど、僕はつまらないやつだよ。付き合っても、きっとすぐに飽きるよ」
目を伏せて、亘はか細い声でつぶやいた。過去、デートした女性たちに、一様に「いい人だけど…」と、言外に「つまらない」と言われて断られた。
貴志も、今は獲物を追っている状態だから自分に興味があるだろうが、手に入ってしまえばすぐに飽きるに違いない。
「あなたは、おれにいじられても、困った顔をするけど、怒ったりしないですよね。でも、一度だけ、あなたがらみとは言え、ほかの先生にからんだとき、おれに注意したでしょう。弱々しくて、小さくて、かわいいだけかと思ってたけど、他人のために戦うことができるなんて。尊敬している人に飽きるなんてこと、ないです」
貴志が亘の両手を取って、うつむいている顔を覗き込んできた。
「佐伯先生?おれの言ってる意味、わかりますか」
「…たぶん、わかってる。今日の遠藤先生、すごくカッコいい」
貴志が、自分の額を亘の額にコツンとくっつけた。
「聖夜ですから、いつもより余計に男前にしてきました」
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