2 / 10

🎄Jaz Night eve 2 16日

Jaz Night eve 2 16日 ラストはクリスマスソング O Tannenbaum モミの木 哀愁あるピアノと気味よいサックス。 夜も更けて、酒の回った席からは、頼りない拍手や威勢の良い指笛、様々。 俺も残りのウイスキーソーダを飲み干すと席を立った。 声くらいかけるか、ステージに近づくと気がついた晴矢が、 「 待ってて 」 と言ってくる。珍しいと思いながら了解のサインを送ると、少々暑い店から外に出た。 12月なかばすぎの冷気に火照った肌はすぐ冷める。 身体をすくめていると、 口争いをしているような姿が見える。 ケンカ?いや 男と女だ だんだんとエスカレートした男が、逃げるような姿勢の女の腕を掴んだのを見た俺はとっさに飛び出した。 ガン!顎に何か当たったような衝撃で店の壁にぶち当たり、更に大きな音がたった。 女の悲鳴とドアの開く音。 朦朧としている俺に、 あいつの声だけが染み込んでくる。 「バカ啓志、考えなし! 」 掴まれた腕、座らされる椅子。 そして顎に当てられる冷たいもの。 その時にやっと気づいた。 「 俺、殴られた? 」 声に出して言ったのか もう一回、 「 バカ 」 と言われた。 隣で毒づく男と謝る男、 泣きそうな顔をしている女。 晴矢が男に話しかける。 どうしてこうなったかと。 聞いても答えないんじゃない? と言った俺。 当ては外れるものだと相場が決まってるらしい。 ボソボソと喋り出す男。 タクシー呼んだからと女に帰るように促すと、それを聞いた女の不満げな顔。 断片的に頭に残る単語を繋ぎ合わせると、つまりこういうこと。 ここに通う女に一応恋人という関係の男が嫉妬したらしい。それが晴矢がらみか? なんだ、バカと言われて、損した気がしてきた。 小一時間男と会話した末、相手がギタリストとわかった晴矢はこともあろうか彼をjam sessionに誘っていたよ。 「 クリスマスまでは割とスタンダードな曲が多いから、来いよ 」 「 おいおい、そりゃないよ、俺を殴った男だよ 」 「 考えなしのお前が悪い 」 キリッと流し目をよこしながら、端整な唇にはそんな冷たい言葉を乗せるなよ。 もう一度男は俺に 「 本当にすみませんでした 」 と言って、帰っていった。 痛い、頭にきた、今夜泊めろ、看病しろ。 いいけど、酒は飲めないよ。明日は盛大に腫れるだろうな、そこ。 と言いながら俺の顎にすっと指を充てる。 俺の中でどきっとする音がする。 まずいな、 疼いた気持ちは奥の箱に押し込めて強引に蓋をした。

ともだちにシェアしよう!