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🎄 Jaz Night eve 4 🎄 18日
🎄 Jaz Night eve 4 🎄 18日
その女性も喋らない俺のことを苦にしてないようだ。助かった。
ジャズのスタンダードナンバーが続く。
腹持ちに頼んだクラブハウスのサンド最後の一片にかぶりついてると、
「 下手、ですよね 」
「 は? 」
「 伊月のギター、下手。普段はあんな弾き方しない 」
「伊月?って?ギター、あーそうか
彼伊月って言うんですか 」
「 そう、あなたを殴ったのは伊月、
有沢伊月 」
訥々な他人からの自己紹介にモヤモヤするがそのまま流すと、
「 彼、気に入っちゃうと、そのまま一気に行っちゃうんです。今夜もそんな感じ」
気に入るってなにが?演奏が?曲が?
最後の曲が?は声に出てたらしい。
俺の方をしっかり見た彼女は
「 いいえ、晴矢さんが、気に入ったんです、私とおんなじ 」
曲が最後のクリスマスのナンバーになる。ラストの曲は
Christmas Time is here
派手さはないけど、静かに優しくサックスが唄うクリスマスを待つ心を写す曲だけど、俺の気持ちは急下降していた。
余韻を残して演奏が終わるとハグと握手のいつもの場面。今夜は落ち着かない気持ちで眺めると、その伊月って男と晴矢は軽く握手をしただけだった。
席の俺を見つけた晴矢はサックスを持ったまま近づいてくる。
すかさず隣の彼女は立ち上がって、
あろうことか、
晴矢に抱きついた。
照明の落とされたステージから
あっと叫んだ声が聞こえた。
俺の方は目の前の光景に声も出ない。
慌てた晴矢は俺にサックスを預けると、彼女の身体をしっかりと押しやった。
「 飲み過ぎかな? 」
「 私、晴矢さんが好き。つきあってください 」
衆目の中で告げられたその言葉に、店内からはやんやの歓声が上がった。
この酔っ払いどもめ!
俺がこの事態をどうにかしようと思ってる間に、伊月の方が先に動いた。
2人の前までやってくると間に入り、
「 今夜は一緒に帰るから、これ以上晴矢さんに関わるな 」
周りの酔っ払いがまた騒ぎ出す。
どんな展開になっても冷やかすのはお決まりだ。
そんなことより俺は伊月の言った一言が気になった。
おい、どういうこと?
今夜は一緒に帰るって、お前はいつもどこに帰ってる?
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