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#1-2
数年前に建て替えられたばかりの新校舎は、空調完備、バリアフリー、小綺麗で快適だ。
二年二組の教室からはグラウンドがよく見えた。俺がチームメイトと共に放課後の長い時間を過ごす場所だ。
とは言え今はまだ昼休みなので、生徒の姿はほとんどない。
「水島、マジでウケんだけど。予習ちゃんとやってんのに和訳いっこも合ってねーんだけど。逆にすげーんですけど!」
自分の席で弁当を広げる俺の隣には、さっき授業が終わったばかりの英語のノートを見て爆笑する達規がいた。
ノートは言わずもがな俺の。
そして菓子パン片手に達規が座るそこは、もちろんこいつの席ではない。
「や、さすがにこれはヤバいっすよ。どうすか達規センセイ? うちの水島、もう手遅れっすか?」
「佐々井くん。何かを始めるのに遅過ぎるなんてことはないのだよ」
「キャーカッコイイ! 抱いて! 水島を!」
「お前らうっせえ! 笑うだけなら返せ!」
達規のひとつ前の席に、佐々井がでかい弁当箱を広げ、アホみたいにガニ股を開いてこっち向きに座っている。
手にはアホみたいにでかい塩むすび。
アホみたいな出で立ちで俺の成績を嘆いている。
「佐々井、てめえ、期末の順位俺より低かったろうが」
「順位はね? あれ全教科の合計じゃん? 英語はお前の倍以上とってますからー。お前赤点でしたからー」
「マジ? 赤点ってホントにあんの? 都市伝説だと思ってたわー」
「ぶっ殺すぞてめえ」
にやにやしながら紙パックのカフェオレを啜るエセヤンキー野郎と、大口開けて塩むすびを頬張るアホのチームメイト。
去年から同じクラスのこいつらは仲が良かったらしい。こうして俺を巻き込んで茶番を繰り広げるようになるまで知らなかった。
「俺に教わっといて次も赤点とりやがったりしたら、あれな、スイパラ奢りな」
顔くらいあるでかいメロンパンをもそもそ食いながら、達規は俺のノートをぺらぺら捲って遡る。
「はぁ? 女子かよ」
「達規甘党だよな。週五でそのパン食ってっし」
「週四ですぅ。金曜日はカレーパンの日だから」
「知らねー」
どうでもいい会話をしながら弁当を平らげていくうち、クラス内も昼食を終えた生徒たちの出入りが多くなってくる。
俺の倍量はある弁当を俺より先に完食した佐々井が、他のクラスの奴に呼ばれて何やら走っていくと、俺と達規はマンツーマンで取り残される形となった。
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