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#1-3

「水島ってさ、何が好きなん」 ずず、とストローからだらしない音をたてながら、達規が言う。 「休みの日とか何してんの?」 随分ざっくりした質問をしてくるもんだから、会話のネタに困っただけかと思ったら、どうやらそうでもないらしい。わざわざ体ごと向き直って俺の方を見ていた。 「何って」言われて考える。休みの日。何してるっけ。 どう答えたものかすぐには浮かばず、「何でそんなん聞くんだよ」とはぐらかすような返事をしてしまった。 「や、別に? 何となく聞いただけ」 あっけらかんとした答えが返ってくる。 やっぱり興味ねえんじゃねえか、と口をついて出そうになったのを察したのか、少し慌てたような顔をして達規は続けた。 「だってさあ、俺の中の水島、まだサッカーと英語の要素しかねえから。あ、甘党? 辛党?」 「あー……甘いもん食わない」 「マジかぁ。見た目のまんまじゃん。じゃあさ、犬派? 猫派?」 「ぜってー犬。つか飼ってる」 「マジ!? 早く言えし! なに犬? 犬種は?」 「柴」 「ちょ、写真、写真! 早よ!」 俄然目を輝かせて食いついてきた達規に、犬派なんだな、どうでもいいけど、と思いながらスマホを操作する。 画像のフォルダを開いて手渡してやると、一人でぎゃあぎゃあ騒ぎながら画面を次々スワイプしていった。 キツネっぽい一重の目がアーモンド型にまるく大きくなって、きらきらしている。そうしているとやけに幼い顔立ちに見えた。 名前は、とか何才、とか、そんな質問に答えているうちに、俺の口も自然と動いていた。 「朝イチで犬の散歩して……、散歩っつーか、ランニング兼ねて一緒に走ってる」 こいつ走るの好きだから、とスマホの画面にアップで映った愛犬を指差す。 「で、土日は基本、四時とかまで部活で……、そのあとはどっか遊んで帰るか、じいちゃんの畑の手伝いか、弟と家でゲームしてるか。で、晩メシ食った後も犬と走る。で、風呂入って漫画読んで寝る」 あれ、そもそも部活がある日は休みって言うのか? でもほぼ毎日あるし。ない日も結局どっかでサッカーしてるしな…… とか思いながらそこまで喋って、ふと、達規の視線がスマホから離れて俺の顔に注がれていることに気づいた。 アーモンド型のまま開いた目。きょとん、とでも文字が浮かびそうだ。 途端に居心地の悪さを覚えて、俺はわざと眉根を寄せる。 「……休みの日の話だよ」 お前が聞いたんだろうが。苦々しい気持ちで付け足す。 達規はその間抜けた表情のまま何度か瞬きをしたあとで、弾けたように「律儀かよっ」と笑った。 そのくしゃっとした笑顔が、尻尾を振りたくる愛犬の姿を彷彿とさせたので、俺は何だか怒る気も失せて肩を竦めたのだった。

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