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#1-7

切れ切れに漏れるその声は、啜り泣いているようにも感じられた。 まさかレイプなのでは、という疑念が頭を擡げるが、 「ほしな、さん……っ」 縋るようにそう呼ばれた長身の男が、相手の片腕を掴んで引き寄せる。 腰は固定されたままなので、引かれた方は上半身だけを捻った苦しそうな体勢で顔を背後に向けた。 長身の男が前屈みになり、二人の顔が近づく。 数秒ほどのあいだ、彼らは動きを止めてキスをしていた。 やがて顔が離れると、その体勢のままで激しい抽送が再開された。下になった男は手綱のように片腕を後ろに引かれたまま、弓形に背を反らす。 「ッあ、ん……ほしなさ、……あ……!」 飲み込みきれなかったらしい声を垂れ流すその顔が、ついに俺の位置からまともに見えてしまった。 それが見覚えのある顔だと一拍遅れて気づき、息を飲む。 同学年の有名人。試験のたびに貼り出される名前と目立つ容姿。達規悠斗が明るい茶髪をぐしゃぐしゃに乱し、苦しげに表情を歪めながら、男に尻を犯されて喘いでいた。 打ちつける腰の動きが速くなり、机が一際うるさく音を立てる。気を配っていられないほど夢中らしい。 やがて大きく突き入れたところで動きを止め、十数秒ほどだろうか、しばらくそのまま荒い息だけを響かせていた。 やがて男が腰を引き身体を離すと、宙に浮いていた達規の足が重力に従って地面に届く。マリオネットの糸が切れたように、かくんと膝からその場に崩れた。 机の天板の側面にこめかみをつけて肩を上下させている伏せた横顔から、目が離せなかった。 上気した頬、乱れて顔にかかった長めの茶髪。 その合間に覗く一重の目、涼しげな印象だったそれが今は気怠く細められていて、……すい、と視線を横に流して。 肩越しにこちらを見た。 俺を見て笑った。 その後のことはよく覚えていない。引き戸を閉めたかどうかも記憶がない。 ただ逃げるように立ち去って、恐らく走ったようで、気がつけば自分の教室の前で息を弾ませていた。 悪夢から覚めた朝のように頭の中がいやな色で渦巻いていて、耳を通過する周囲の賑やかさが逆に非現実のように感じられた。 どこかぼんやりしたまま、操られるかのようにふらりと教室に戻れば、一角でクラスメイトたちが件の看板を囲んでいる、つい数分前と変わらない光景がそこにはあった。 「お、水島おかえりー」 間延びした声で出迎えられ、相変わらず頭はぼやぼやとしていたが、平静を装っておう、とだけ返事をする。 「筆あった?」 「……お?」 「いや、お? じゃなくて」 当然筆など持っていない。 当初の目的だったそれは、今この瞬間まで俺の頭から綺麗さっぱり消えていた。途端に焦る。 級友たちの目が痛い。 弁解を目論みはしたが、咄嗟のことで何の言い訳も浮かばない。かと言ってこの目で見たものを語る気には到底なれず。 俺は結局「何しに行ったんだよ」「ただのサボりじゃねーか!」等と、至極真っ当な罵倒を浴びせられることとなったのだった。

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