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#1-6
目的の美術室に辿り着き、閉まった戸の前に立つ。
耳を峙てると、微かに物音が聞こえる気がしたが、どこか近くの教室から賑やかな声がしていてよくわからなかった。
引き戸にそっと手をかける。
施錠はされておらず、軽く力を込めれば手応えは思いのほか軽かった。十センチほどの隙間が空く。
一見して見える範囲ではがらんとして人気のない室内だったが、僅かながら戸が開いたことで中の物音が耳に届くようになった。
やはり何かが擦れてぶつかり合うような音がする。
その出処を伺うべく隙間に顔を寄せ、そして、隅の方にその様子を認めてしまった。
見るからに雑に寄せただけの、年季の入った二台の机。
それをがたがたと鳴らしながら、二人分の人影が、ぴったりとひとつに重なっている。
他には誰もいない美術室。
その光景が飲み込めず、俺は暫し呼吸を忘れて立ち尽くした。
思春期ど真ん中の男子高校生だ。何をしているのか、なんていうことはもちろんすぐにわかった。
ただ、脳の理解を遅らせた明白な理由は、それが男女の行為ではなかったこと。
傍らに投げ出されたブレザーの上着、纏ったままのカッターシャツ、スラックス。
覆い被さっている方だけでなく、揺すられている方も、見間違えようがなく男子用の制服を着ていた。
どくん、と心臓が大きく打って、同時に頭の中へ大量の血が送り込まれたような感覚がした。
頭蓋骨の内側が煮えたように熱くなる。それは興奮とは似て非なるものに思えた。
そんな中でも、俺の目は食い入るように二つの人影を凝視してしまっていた。
こちらに背を向けて腰を振っている方は、膝を屈めた姿勢でも、すらりと長身であることがわかる。
対して、机に突っ伏した形で組み敷かれているもう一人の方は、それよりずいぶん小柄のようだった。
腰の位置を合わせるためだろう、上体は完全に机に乗り上げ、足が床に届いていない。脱げたスラックスが片方の足首あたりに引っかかったままになっていて、突かれるのに合わせて床に擦れている。
彼らが俺の存在に気づく気配は皆無で、荒い息遣いの合間に、押し殺した喘ぎ声まで聞こえてきた。
「ん……ッ、ぐ、っぁ、……っ」
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