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#2 air

五月も半ばに差し掛かれば、陽射しには初夏のような力強さが顕れ始める。 今日は特別暑くなりそうで、通学中からすでに軽く汗ばむほどの陽気だった。 「お前なっ、俺があれだけ観ろって言ったのに! 昨日はまさかのマナちゃんの入浴シーンがあったんだぞ!? 神回だったのに何で観てねえんだよ!」 学校に着く前から佐々井と鉢合わせてしまったのは運が悪かった。とにかくうるさい。さっきからずっと喋っている。 最近お気に入りの若手女優が出演しているという連続ドラマ、最高だから絶対に観ろと確かに昨日もうるさかった。 「寝ちまったんだからしょうがねえだろ……もともと興味ねえし」 「ありえねー、マナちゃんに興味ないってのがまずありえねー、水島とはいつも趣味が合わねー」 「お前が趣味悪ぃんだよ。なんかギャルっぽいのばっかじゃん」 「お前は金髪とか茶髪だとすぐギャルって言うよな! そんなに黒髪ロングが好きならお雛様で抜いてろ、このロリコン野郎!」 「朝からでかい声でそういうこと言うんじゃねえよ! ロリコンじゃねえし!」 教室ならともかく、いやそれも勘弁してほしいが、まだギリギリ学校の敷地内にも入っていない屋外だ。公共の場だ。すれ違った主婦らしい中年女性の目が痛い、ような気がする。 とりあえず佐々井の後頭部を一発叩いておく。 「あーもう本当うぜえ、やっぱ置いてく。じゃあな」 「あっ、ちょっ、待てよ! 寂しいだろうが!」 佐々井と会ったから渋々降りて押していた自転車に、再度跨り速やかに発進。 歩いたって昇降口まであと数分もない距離なのに、佐々井はぎゃあぎゃあ言いながら走って追いかけてきた。寂しいって何だよ。 駐輪場で追いつかれ、再び連れ立って昇降口へと向かうところで、ここのところつるんでいるもう一人と行き合った。 「お、達規。おはよ」 「お前ら朝からマジクソうるさい。マジ近所迷惑」 眩い自然光の下で見る達規は、いつにも増してヤンキー感が増していた。 髪は完全に金髪と言って差し支えない明るさになっているし、両耳に複数あるピアスも輝いて存在感が強い。 暑さのためか、シャツのボタンもいつもよりひとつ多く開いていた。 「一緒にすんな。うるせえのは佐々井だ」 「水島も声でけえもん。後ろ歩いてたら丸聞こえ」 達規の片手にはコンビニの袋。恐らく、いつも飲んでいる紙パックのカフェオレと、顔くらいの大きさのメロンパンが入っているのだろう。 もう片方の手で、脱いだ靴を持ったまま器用に下駄箱を開けた。 「水島、ロリコンだったんか……妄想だけにしとけよ? 実行に移したら犯罪だからな?」 「だから、ちげえっつの」 「お雛様に興奮できるとかレベル高くね?」 「水島は上級者だから」 「うるせえ! 佐々井は調子乗んな!」 バカみたいに笑う声が両サイドから上がって、俺は押し寄せる疲労感に息を吐く。まだ登校しただけだというのに。

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