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#2-3
「……お。今日の自信のほどは?」
達規の横に立ち、その顔の前に青い表紙のノートをずいと差し出すと、達規はにやっと笑ってこちらを見上げてきた。
「昨日よりはマシ、だと、思う」
「マジか。期待」
大きく椅子を引き、脚を投げ出すようにして座る姿はそこそこチャラついていて、学年首席には到底見えない。
まして、単なるクラスメイトの勉強を毎日見てやったりするようには。
このところ、俺は達規に朝一で英語の宿題や予習を提出するのが日課になっていた。
授業までに達規が添削してくれたそれを、辞書を片手に自分で直す。英語が何限目かは曜日によってまちまちだが、一限の日はないのが幸いだった。
達規は俺のノートの添削を、他の授業の間に内職しているらしい。
真面目な授業態度はどこへ行ったと突っ込みたくなるが、この習慣が始まって以来、当てられて困ることが激減した身としては、何も言えない。
「つーかさぁ」と、片手で俺のノートを受け取りながら達規がぼやいた。
「水島って真面目だよなぁ……こんなに毎日ちゃんと見せに来るとは思わなかった……」
「ああ? てめえが言ったんだろうが。バカにしてんのか」
俺の英語を見てやると言い出したのも、赤ペン先生してほしけりゃ見せに来いと言ったのも達規本人だ。いや、きっかけは佐々井だったかもしれないが。
俺はその申し出に乗っかっているわけだから、まあ、手間をかけさせているのはわかっているが、少なくともバカにされる筋合いはないはずだ。
俺の憤慨した気配を瞬時に察知したらしい達規は、キツネ目を細めて苦笑いのような顔になった。
「先生の言うことちゃんと聞いてエライなぁって言ってんの。そんな真面目なのに何でこんな成績なん?」
「うるせえ、わかんねーもんはわかんねーんだから仕方ねえだろ」
「はは、開き直ってっし。まあいいや」
お預かりします、とノートを机の上に着地させる。
今日の英語は三限だ。達規は一限の地理の時間に赤ペン先生をして、二限の数学の前にノートを返してくる。
先週も先々週もそうだったから、今日もたぶん。
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