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#2-5

授業でやる体育は嫌いじゃないが好きでもない。楽しいの前にダルいが来る。 一人でランニングするのとか、部活のウォームアップで走るのは好きだ。 それが体育となると途端に面倒に感じるのは何故なのか。 出席番号順に並んで待ちながら、答えもないのにそんなことを考えた。 測定されたタイムは去年よりもコンマ数秒縮んでいて、それは素直に嬉しかったが。 「み、水島、やべえ、聞いてくれ」 走り終わった俺の元に佐々井が寄って来るが、何やら様子がおかしい。左胸に両手を当てて苦しげな表情をし、足もどこかふらついていた。 何事かと訝しんで真面目に聞く姿勢をとったのは、俺の負けだったと言っていい。 「一組の工藤さん……俺が走り終わったときにちょうどそこ通って……佐々井くん足速いねスゴイね、って……」 聞いて思い出す、佐々井の様子がおかしいのはいつものことだったと。 「俺の方が速ぇし」 「うっせえ、そこじゃねえよ! わざわざ話しかけてきたんだぞ、名前も覚えててくれたし! これはやべえだろ、春だろ春!」 「春だけど」 「だから季節の話じゃねえって!」 思わぬタイミングで女子と会話ができたことに浮かれまくっている。 あまりにも嬉しそうで、その手軽さが羨ましくさえ思えた。 工藤なんて名前、さっきまで一回も出てきてなかったぞ。 「いや、可愛い子はみんな好きだけどさあ、『好き!』ってのはそれだけじゃねーじゃん? 何かのキッカケで『可愛い子』から『好きな人』になって、そこからの『彼女』だろ? トクベツな存在だろ?」 力説する佐々井の表情はいつになく真剣で、何をそこまで熱心になっているのかは理解できないにせよ、なるほどそんなもんか、という気にはなった。 「彼女って。話飛びすぎだろ」 「まあな、そこはまだ先だけど。でもさ、キッカケなんて、振り返ってみれば些細なことだったりするんだよ」 さも経験者のような顔をして語るが、お前、彼女いたことねえだろ。 そう突っ込んだら「お前もだろうが! 童貞野郎が!」と吠えたので、後頭部をひっ叩いておいた。 なんか、朝もこんなやりとりした。デジャヴだ。

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