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#2-6

俺すげーことに気づいたわ、と達規が頭を抱えて言った。 とある昼休みのことだ。 いつものように俺の横の席まで弁当を持ってくる佐々井と、日によっては他の奴と食うこともある達規。 今日は来ないのかと思ったら、コンビニの袋を片手に、やや遅れてやって来た。もう片方の手に、英語の問題集。言わずもがな表紙には俺の名前。 「お、今日はカレーパンだ」 「金曜日だかんな。いや、そんなことはどうでもいい」 いつものメロンパンよりは小ぶりなカレーパンと、相性最悪であろう甘そうなカフェオレを取り出しながら、達規は眉間に思いっきり皺を寄せている。 「水島、これ、辞書引かないでやったんよな?」 これ、と言って指し示す問題集は、今日までの宿題になっていたものだ。いつもの通り朝一で達規に渡して、午後の授業で提出する予定の。 「そうだよ」 それは達規の指示だった。違ったら直してやるから、一回とりあえず辞書なしでやってこい、と。 別にカンニングする必要性もないから言う通りにやった。 案の定壊滅的だ、と嫌味でも飛んでくるのかと思ったが、溜め息混じりに続く達規の言葉は意外なものだった。 「単語の意味は結構とれてんの。水島、真面目だし、たぶん意外と単語は覚えてんの。なのに文章の和訳は全然ダメだし、英作文はもうマジでクソ。クソ以下」 つまり、問題はそこじゃなかったんよ。 どことなく神妙な面持ちで問題集をぺらぺら捲り、すぐにぱたんと閉じると、俺の手元に突きつけた。 そして言う。 「お前、be動詞と一般動詞の違いとかわかってねーだろ」 「は……?」 be動詞と一般動詞。 いや、そのくらいわかる。be動詞はイズとかアムとかアーとかだろ。一般動詞は、動詞、のことだろ、だから。ゴーとか、スタディとか、サッカーとか、だろ。わかるぞそのくらい。 「なるほど、サッカーが動詞だと思ってんのね?」 「……ちげーの?」 ちげーね! と達規はやけに勢いよく、握ったストローを机に突き立てた。 薄いビニール袋を破って飛び出したそれをカフェオレのパックに差し込むが、口をつけることはせずに続ける。 「じゃあさ、人称代名詞の格の区別ついてる? アイマイミーマインの違い説明できる?」 「助動詞があったら動詞は原形って覚えてる? そもそも助動詞って何のことかわかる?」 「前置詞って知ってる?」 矢継ぎ早に問われて面食らう。 達規の勢いもさることながら、訊かれていることの意味がほとんどわからない。 例えるなら、聞いたこともない異国のスポーツのルールをいきなり訊かれているような感じだ。 答え方すら見当もつかない問いに、俺はぽかんと口を開けるしかなかった。

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