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#4-3

徒歩通学の佐々井をやむなく後ろに乗せ、バスで二十分程度の距離をチャリで爆走。 祭り会場の手前のアーケード内にあるドーナツ屋で達規と待ち合わせた。場所は達規の方から指定してきたのだ。 なんでわざわざドーナツ屋、と思ったが、店の前で待っていた奴の手を見て納得した。 「毎年出る夏限定のヤツ、昨日発売だったんよ。めっちゃ楽しみにしてたぁ」 水色の包み紙から、淡い黄色をした丸い物体が覗いている。 よく見ると輪切りのレモンがトッピングされているから、あの黄色はレモン風味なんだろうか。砂糖の塊にしか見えない。 祭りに向かう人々で混み合っているアーケード、パステルカラーの装飾がされた店の前でいわゆる不良座りをし、人目も憚らずドーナツを頬張っている茶髪。本来なら避けて通りたいところだ。 「お前ほんと、女子みてえな食生活してんな」 「味覚の女子力が高いと言ってくれる?」 「子供舌の間違いだろ」 「脳は糖分使うんです。俺は常にこの天才頭脳をフル回転させて生きてっから、人より多めに甘味が必要なんです」 続きを食いながら歩く達規は、白Tシャツに細身のデニムを踝まで折り上げ、黒のコンバースという極めてシンプルな出で立ちだった。 荷物はポケットの財布と携帯だけのようで手ぶらだ。 シルエットがやや大きめのTシャツが、ひょろい体型を逆に際立たせている気がする。 俺も佐々井もそれなりにフィジカルを鍛えているから、並ぶと達規が余計に華奢に感じられた。 アーケードを抜けたところにある駐輪場は、ほぼ満車状態だったがなんとか停められた。 そこから出店通りまではすぐで、予想通り、かなりの人出で賑わっている。 日も暮れかけ、濃い藍色の空に提灯の明かりが行儀よく並んでいる。紅白の地に透かされた電球の光が、今は白っぽく見えるが、暗くなれば黄味がかって一層綺麗だろう。 すでに酔っていると思しき大学生らしい集団や、浴衣のカップル、小銭入れを握りしめ、何かの景品であろう玩具の剣を振り回す小学生。 纏わりつくような暑さが鳴りを潜め、夜風の一歩手前のような穏やかな風が吹き始めていた。 ドーナツ食ってた達規はともかく、部活終わりの俺たちは腹が減っていたので、とりあえず何か食おうと屋台を物色しながら歩き出した。

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