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#4-4

「すげー、トッポギとかチャプチェとか売ってる。初めて見た」 「最近あるよな、外国系」 「屋台もネタ切れとか大変なんかな」 「カレーとか売ってくれたら買うのに」 「祭りでわざわざカレー買うか?」 「ラーメンとか」 「違う屋台じゃんそれ」 「うわラーメン食いたくなってきた」 「焼きそばで我慢しろ」 前が見えないほどの人混みの中を、俺の左側に達規、右側に佐々井の立ち位置でだらだらと歩いていく。 どこからともなく流れている「定番夏ソング」的なBGM、屋台の客引きの声、行き交う人々の笑い声。喧騒に掻き消されないよう、知らず声が大きくなった。 「あ、ヨーヨー欲しい! 水島! ヨーヨー買って!」 「何でだよ自分で買え」 「金魚すくいやりたい! 水島! やってもいい!?」 「知るかよちゃんと世話できるんなら勝手にやれ」 俺はもろこし食ってんだよ。忙しいんだよ。 「なあなあフランクフルトをエロく食う選手権やろ」 嫌に決まってんだろ。アホか。 何だかんだと騒ぎたてながら、メインの通りを端から端まで歩き通す頃には、いつの間にか空もすっかり紺碧色になっていた。 神社の境内や石段の所々に、座って休憩しているグループを見かける。俺たちもそれに倣って、植込の段差に腰を下ろし、買い歩いたものを食べることにした。 「マジかよ、たこ焼きめっちゃ生焼けなんだけど」 「佐々井なら大丈夫っしょ」 「いや俺意外とお腹センシティブだから……」 「試合前とかトイレ籠るもんな」 「マジ? ゲリ野郎かよ」 「うるせえぞ、達規お前、これ食ってみろって」 「ヤダよ。ゲリしたくねーもん」 そんなくだらないやりとりをしている間にも、目の前を次から次へと波のように人が過ぎていく。 多少下品な話をしていても誰も気にしないくらい、どこも賑やかで、そして誰もが浮き足立っていた。

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