30 / 142
#4-5
浴衣を着た女子のグループを見つけるたびに露骨に目で追う佐々井が、「浴衣っていいよなあ」としみじみ呟いた。
「あの子可愛い。あの水色の浴衣の」
「ギャルじゃん。ケバい」
「出た! 水島のギャル嫌い」
出た、はこっちの台詞だ。化粧濃いし、金髪盛りまくってる髪型も、どこがいいんだかさっぱりわからない。
「あー、水島はお雛様系の幼女が好きなんだもんな?」
「違うっつうの」
「お、あの子は? あの紺色っぽい浴衣に黄色い帯の」
佐々井が張り切って俺の好みに合いそうな女子を探し出す。
黒髪を結構古風な感じにまとめていて、色白でちょっと控えめっぽい雰囲気。確かに可愛い。花火柄の浴衣も派手じゃないのが良い。
「いやいや、ああいう清楚ぶってるのほど遊んでっからね、騙されちゃいかんよ水島」
「そういう達規はさ、どんな感じが好きなんだよ?」
佐々井が俺から達規に舵を切り、「達規の好きなタイプって想像つかねえ」と声を弾ませる。こういう話題が本当に楽しくて仕方ないようだ。
当の達規は唸りながら辺りを見回した。
「俺はねえ……、あー、あの人とか」
行儀悪くフライドポテトで方向を指し示して言う。
「あの赤い浴衣の、ああいう感じは好き」
「あの団扇持ってる子? あー、キレイ系だな! ハーフっぽい顔」
その方向を見ると、赤い地にモノトーンの柄が入った、目立つ浴衣の女子が確かにいた。少し年上くらいに見える、大学生か専門学生だろうか。
「んー、顔もだけど……なんか浴衣の柄とか帯の色とかちょっと変わってるし、自分の世界がハッキリしてるっていうか……そういう人が好きかなあ」
「我が道を行きます的な? でもそういう子って付き合ったらめんどくさそうじゃね?」
「そ? 楽しそうじゃん」
好きなタイプ、という話題が達規に振られた瞬間、内心密かに動揺した俺がいた。達規が女子を挙げたことに安堵して、無意識に溜め息が漏れる。
達規はゲイではなく、いわゆるバイセクシャルというやつなのだろうか。いや、カモフラージュで適当な女子を選んで挙げただけかもしれないが。
どちらにせよ、こんなところで突然のカミングアウト、という展開にならず胸を撫で下ろした俺は、どこか穏やかではない気持ちで佐々井の浴衣女子談議を聞き流していた。
ともだちにシェアしよう!