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#4-6
買ったものを全て胃の中に納め、再び賑わう中を歩き始める。
今度はメインの通りではなく、駅の方まで続く一本横の道を進んでみることにした。人混みが少し落ち着いていて歩きやすい。
「お。あったぞ、お面」
出店のひとつに、佐々井と日中交わした会話を思い出した。
頭の上にハテナを浮かべる達規をよそに、佐々井は嬉々として出店へ駆け寄る。
「いつもお世話になってる達規先生に、どれでも好きなの買ってやるよっ」
「いや、何でお面なん。いらんし。そんならかき氷買ってよ」
もっともな達規の言葉に口角が上がる。しかもお面って意外と高い。佐々井は気にする風もなく財布を取り出した。
「遠慮すんなってぇ。やっぱコレか? コレだよな? よし、コレください!」
「ちょ、マジかコイツ、せめてピカチュウとかそういうの……」
佐々井が迷わず選んだのは、言っていた通り、女児向けアニメらしきキャラクターのお面だった。
何のアニメかは知らないが、やたらボリューム感のあるピンクの髪は間違いなくそれ系だろう。
店のおっさんに五百円玉を支払い、代わりに手にしたそれを、佐々井は満面の笑みで達規へ差し出した。
「ホラ、カワイイぞプリキュア。たぶんプリキュア。着けてみろって」
「ヤダよ! お前が着けろ!」
すげえ、目玉がデカめの茹で卵ぐらいある。その真ん中に空いている視界確保のための穴が、そこだけ黒々としていて瞳孔がガン開いているように見える。怖い。
「お前、友達からのプレゼントを無碍にする気か?」
「わかった、じゃあ、まずお前が着けろ。それ見て考えるわ」
一向に受け取ろうとしない達規がそう言うと、焦れた佐々井は「しょうがねえな……」と眉を顰めつつ、お面を顔の高さまで掲げる。マジかよ。着けるのか。
「俺が着けたら、お前も絶対着けろよ?」
「それは約束できない」
俺は巻き込まれないよう、少し距離を保って二人のやりとりを見守っていた。
そんな俺の肩を、そのとき誰かが後ろから軽く叩いてきた。
振り向くと、見知らぬ浴衣の女子。いや、違った。知ってる顔だった。
去年同じクラスだった安倍が、青い浴衣を着て立っていた。
その後ろに、名前は知らないが何となく見たことある顔の女子が三人ほど。聞けばクラスの友人同士で来たのだという。
「あっ」と佐々井の声がして見ると、奴はピンク髪のお面を額の上に装着した状態だった。
ちょうど着けたところなのか外したところなのか知らないが、お面に両手をかけたまま、顔の上に顔を乗せた間抜けな状態で、上擦った声をあげる。
「く……工藤ちゃん!?」
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