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#4-11
待ち合わせをしたアーケード街を一本逸れたところに、そこそこ大きい公園があるのを思い出して、俺たちは出店通りを抜けた。
かき氷の屋台なんて、ただ歩いているときには腐るほど見つけたのに、いざ探してみるとなかなか遭遇できず、やっと発見してもすでに店仕舞い中だったりした。
焦らされると欲しくなるのが人間の心理だ。
探している間に俺もかき氷が食いたくてたまらないような気分になってきて、ようやく見つけたときには二人で歓声をあげた。
俺はブルーハワイ、達規はイチゴのかき氷をそれぞれ手に、公園の入り口近くの空いていたベンチに腰を下ろした。
「ほんとにこっから花火見えんの?」
氷をスプーンで掬いながら達規が言う。
確か去年サッカー部の連中と来たときに、たまたまこの公園でお好み焼きか何かを食っていたら、ちょうど花火が上がったのだ。
障害物ゼロとはいかないが、そこそこ見えた記憶がある。
「俺、花火好きなんよ。見るのもだけど、音とか」
「ああ、わかる。腹に響くの気持ちいいよな」
「さすが水島」
夜といえど夏の真ん中、そして風通しの良い公園の中だ。半袖で風に当たっているのが心地良いくらいの暑さはあるが、かき氷を半分も食べ進めると、さすがに涼しくなってきた。
「もっと早い時間に食うべきだったな」
「はい、それ英語で言ってみ」
「えっ……えーと……」
少し離れたところから、道行く人々の笑い声が聞こえている。
公園の中は俺たちと同じく花火待ちらしき姿がちらほら見えるが、さほど騒々しくはなかった。
氷のしゃくしゃく言う音と、ぽつぽつと途切れながらも続く会話。
今日一番平穏な時間を過ごしている気がする。悪くない。
「あー、明日から夏休みかあ」
達規の間延びした声に、そうだなあ、と負けず劣らず気の抜けた声で返す。
明日から一ヶ月と少しの間、俺はたぶんサッカー漬けの生活だ。今週末には早速練習試合もある。
「いいなあ、部活。俺めっちゃ暇だわ。遊ぶしかない」
「遊べばいいだろ。それかお前も部活やれば」
「美術室に一人で何しろっつーの」
「いや、絵描けよ」
「寂しいからヤダ」
かき氷で冷えたんだろうか。少し乾いた声で達規が短く笑う。
目の前を親子連れが横切った。まだ二十代に見える若い父親が、女の子を肩車している。
宵闇でも目を引くような赤い浴衣に、巨大なタンポポの花を背負ったみたいな帯。
何故か童謡のカラスの歌を口ずさむ声が、ゆっくり遠ざかっていった。
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