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#5-6
「ちょうどよかったあ。すげータイミング。奇跡」
胸あたりまでの高さのフェンスに寄りかかって、達規はへらへら笑いながら手招きをする。近づくと、
「水島にこれあげる」
そう言って、手にしたペットボトルを俺に差し出してきた。
スポーツドリンクといえば、の青いラベルに、半透明の中身。受け取ると、空いた手で達規は校門の方向を指差した。
「バス停のとこにさ、自販機あんじゃん」
校門から数十メートル離れたバス停は、俺も通学時に通る。思い起こすと確かに、利用したことはないが、自販機が一台あったかもしれない。それがどうした。
「今ね、あそこで飲み物買ったんよ」
「うん」
「そしたらね、当たったんよ! 俺、生まれて初めて自販機で当たり出た!」
ひらひらさせていた手をグーにして、初めて見るくらいの笑顔を輝かせながら言った。歓喜、を絵に描いたようなリアクション。
「……喜びすぎじゃね?」
「だってさあ、当たったことある? 俺あれは当たんないもんだと思ってたよ」
言われて考えてみれば、確かに当たったことはないかもしれない。そんなに意識していなかった。いや、それにしてもだろ。
「で、うおーって一人でめっちゃ興奮してたんだけど」
一人で何やってんだよ。達規は佐々井みたいに一緒に騒ぐ奴がいなければ、意外と静かに澄ました顔をしているから、一人でテンション上がってるの想像できない。
「そしたら、バス来たの気づかんくてさあ。一本逃しちゃった。次のやつ、二十分後」
「バカじゃねーの?」
普通に突っ込んだら、なぜか達規はさらに顔を輝かせて「そう、それ!」と俺の方を指差してきた。行儀が悪い。
「水島の、バカじゃねーの、が聞こえたんよ。天から」
そういうのは空耳って言うんだよ。
「そしたら、手が勝手にアクエリ押しててさあ」
手をふらーっと宙に彷徨わせてから、自販機のボタンを押す動作をする。見えない力に操られたとでも言いたげに。そんなわけあるか。
「これ絶対、水島の生き霊が、俺の当たり奪いに来たんだと思ってさあ」
「行ってねえよ。行かねえよ」
「怖ぁ! と思って」
そんなみみっちいことに生き霊使う奴いるか。どんな被害妄想だよ。
「まあそんなわけだから、あげる」
そう言うと、俺の手にあるペットボトルを再び指差して笑った。
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