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#6-3

「佐々井ほんと腹立つ、何なん」 「いや俺のせいじゃねーだろ。お前らが弱かったんですう。強い者が勝つんですう」 「あーくそムカつく! 手え痛い! ムカつく! 水島!」 「何だよ」 「呼んだだけ!」 体育館から教室への帰り、珍しく達規は荒れていた。最後によりによって佐々井のいるチームに負けたせいだ。 特訓を経た達規はどうにかサーブが入るようになったものの、佐々井の「達規んとこ穴だぞ!」の一言で向こうのチームからの集中攻撃を受けた。 ぎゃあぎゃあ言いながら必死にボールを受け続けた結果、達規はレシーブも多少上達したが、試合にはボロ負けしたのだった。 「ほんとバレー嫌い。一番嫌い」 「でも割と楽しそうだったじゃん?」 「全然楽しくない。痛い。ヤダ。佐々井許さない」 「なんでちょっと片言なんだよ」 だらだら廊下を歩いて、図書室の隣の空き教室へ向かう。 各教室では女子が着替えるから、男子はいつもそこを使うことになっていた。 四限終わりの昼休みだということもあって、いつもより殊更だらけたペースで着替えをする。 暑いし、疲れたし、腹は減ったし、でも教室まで戻るの何となくだるいし。 そんな空気が漂う中、汗臭い体操着を脱ぎながら、佐々井が突然神妙な面持ちになって口を開いた。 「土曜日さ……工藤ちゃんと遊ぶことになったんだけどさ」 相変わらず工藤とのことはマメに報告してくるが、まだ付き合うことになったとは聞いていない。 「二人で?」 「おう、二人で」 「良かったじゃん」 佐々井は着替えるときはまず全部脱ぐ派らしい。下も脱いで現在パンイチだ。 パンイチで何やら眉間に皺を寄せ、「いや、それがさ……」と深刻な口調で言う。 「部活終わってから会うんだけど……ご両親が出張で、次の日まで帰ってこないとか言うんだよ……」 達規がその横でスラックスを上げながら、目線もくれずに「おー、やっとけやっとけ」と雑極まりないコメントをした。不覚にも笑う。 佐々井は途端に情けないハの字眉になった。 「真面目に聞いてくれよお」 「聞いてるし。これ以上何も言うことないっしょ」 「もうちょっと何かあんだろ!?」 「ゴム着けろ。以上」 ばっさり。いつもは割と構ってくれる達規が冷たいので、佐々井は「何だよもう……」と悲しげな声を出した。 「なあ、水島ぁ」 「つーかズボン穿けよ早く」 あと何だよそのパンツ。何で魚偏の漢字いっぱい書いてあんだよ。ちょっと面白くてムカつくからスルーすることにした。

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