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#6-6
ゴールに背を向けてリフティングからの、振り返ってシュート。
自主練でよくやっていることを、今日の俺は部活後しばらくグラウンドに残って繰り返していた。
「おーい。いつまでやんだよぉ」
「いいから先帰れって」
ゴールのすぐ横にジャージ姿の佐々井があぐらをかいて座り込んでいる。さっきから何度言っても、帰ろうとせず俺が終わるのを待っているのだ。
「今の、ちょい前傾すぎじゃね? 浮いたぞ」
「そっち側ちょっと弱いよなお前。取られんぞ」
「お、今の汗の拭き方かっけえ!」
まともなコメントもそうでないものも含め、ああだこうだと終始口を挟んでくる。有り難いような鬱陶しいような。
たぶん、他の部員は全員帰った頃だろう。部室の鍵は預かってある。そろそろ辞めにして鍵返しに行かないと、事務のおっちゃんに怒られるな、とぼんやり思う。
部活の間中ずっと、何かが引っかかっていた。
調子は別に悪くない。身体もよく動いていると思う。チームメイトとの連携だってとれている。
それなのに、小骨が喉の奥に引っかかっているみたいな、どうにも落ち着かない感じが続いている。
それを払拭したくて一人ボールを蹴り続けたが、何も変わらない。
これは精神的なものが要因ではなかろうか、と思い始めたところで、ふっとグラウンドの照明が消えた。完全下校時刻だ。
「あー、ほら、時間切れだって。もう帰んぞぉ」
佐々井が言いながら立ち上がって、尻の埃を払った。
陽はとっくに暮れきって、空は真っ暗だ。ボールが見えなければどうしようもない。さすがに俺も帰り支度を始めた。
玄関横にチャリを停め、引き戸を開けると、居間から猛烈な勢いで巨大な毛玉が飛び出してくる。
愛犬の福助が、わふわふ言いながら、靴を脱いだばかりの足元にじゃれついてきた。
千切れて飛んでいきそうなくらいに尻尾を振っている。
柴犬は運動好きだと言うが、早く散歩に行きたくて仕方のない福助は、毎日こうして俺の帰りを盛大に出迎える。
居間にただいま、と声だけかけて、脱衣所へ直行した。
洗濯物を籠へぶち込む間も、福助が早くしろと言わんばかりに纏わりついてくる。ついでにジャージの上着も脱いで、半袖のシャツ一枚になった。
「ごはん後でいいんでしょ?」
母さんがのっそりと居間から顔だけ出して言う。奥からテレビの賑やかな音声が聞こえた。
「ん、先に散歩と風呂」
「はいはい。気ぃつけんのよー」
落ち着きなく動き回る福助の首にリードをつける。
家への滞在時間、一分。エナメルバッグを玄関に置いたまま、スマホも持たずにランニングもとい福助の散歩へ出発した。
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