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#6-8
白米をおかわりして夕飯を終え、バラエティ番組もちょうどドラマに切り替わったので、テレビを消して自室へ引っ込むことにする。
さっさと宿題を片付けてしまおうと、机に向かった。
数学のプリントは大した量ではないのですぐに終わった。あとは英語の予習だ。
教科書とノート、それに辞書を引っ張り出す。
去年までは、辞書は学校に置きっぱなしで、家では姉貴のお下がりの電子辞書を使っていた。
紙辞書をわざわざ持って帰ってくるようになったのは、教師ではなく達規の指導によるものだ。
電子辞書は使うな。紙の辞書、それも一冊だけを使え。家と学校とで分けると意味がない。
調べた単語には下線を引く。スペルと意味は勿論だが、品詞を必ず確認すること。名詞、動詞、形容詞、とかだ。英文を訳すのも、自分で書くのも、品詞の区別ができていると格段に早いし、楽になる。
いちいち持ち帰るのは重いし正直ダルい。それでも達規の言うことは一旦、全て実践することにした。
その結果が先日の模試だ。
たぶんあいつは凄い。
ノートを開くと、几帳面な書き込みが目に入った。細い赤ペンで綴られた整った文字。
ページが真っ赤になるほどびっしり直されていた最初の頃よりは、ずいぶん減った。
達規の顔が脳裏にちらついて俺はやっと気づいた。
ずっと燻っている、この得体の知れない落ち着かなさの源は、達規だ。あいつのことが引っかかって、どうにもすっきりしない気分になっているのだ。
達規の顔を思い浮かべると、何か小さなとげとげした塊が、肺のあたりにつかえた感じになる。それが証拠だ。
そこまではわかったが、しかし、何が?
俺は無意味に辞書のページの端を繰って弄りながら、もう片方の手で後ろ頭を混ぜかえした。
その先がわからない。引っかかるようなことの心当たりがない。
別にあいつに怒ってることもないし、こないだの痣のことは、気になるけど。でもそれきり変わった様子もないから、深追いするのもやめたのに。
しばらく予習の手を止めて、赤ペンの文字を見つめた。
自分のことなのに何も答えが出ないので、ノートも辞書も開いたページをそのままに、俺は立ち上がった。
部屋を出て、台所に立つ母さんの背中に「もっかい走ってくる」とだけ告げる。
ランニングシューズの紐をきつめに締め直す。
福助が駆け寄ってきて、連れて行けと言わんばかりに飛び跳ねるが、悪い福助。今は一人で走りたい気分だ。
玄関を出て見上げた空は、さっきよりも色濃い夜で、月がひとまわり大きくなったように見えたが、たぶん気のせいなのだろうと思った。
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