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#7-2

黒板に書き出された案の中には、演劇などのステージ発表系から飲食関係まで様々あった。 劇はダメだ、練習やら小道具やらと事前準備が多いのが目に見えている。 去年のクラスでは焼きそば屋をやったが、あれはさほど準備に時間をとられなかった記憶がある。あの路線がいい。 その焼きそば屋の看板を作っている最中に遭遇してしまった例のアレが、芋づる式に思い出されたが、すぐに手の甲を抓って思考から消した。 「つーか、お前、そういえば」 懲りずに横座りのまま、顔だけ前に向けた達規に、つい声をかけてしまう。達規は心なしか嬉々とした顔でぱっとこっちを見た。 「美術部なんだろ。学祭って何もねえの?」 文化部にとっては重要なイベントのはずだ。普通は作品の展示とか、何かそれらしいのがあるもんなんじゃないのか。 しかし達規はあっさり首を横に振った。 「だって活動してねえもん」という返答は、まあ、普段の様子から予想できないものではなかったが、それにしても疑問が湧く。 「それでいいのかよ、部として……」 「さあ。来年こそ廃部かもね」 それこそどうでもよさげに達規は肩を竦めて、女子みたいに片手で茶髪の毛先をいじくっていた。 「お前、実は絵上手いとかねえの」 「ないない。全然フツウ。見るのは嫌いじゃないけどねー」 そんな会話を交わしているあいだにも話し合いは進み、終業のチャイムが鳴るギリギリで、多数決で第三候補までが決められた。 三番手に演劇が入ってしまったが、あとの二つに懸けるしかない。 達規は最後まで椅子に横向きで座り、だらしなく壁に凭れていた。 翌日の金曜日は、達規にカレーパンを献上する日だ。 登校時、普段は寄らないコンビニに入り、パン売り場へ直行する。いつものやつの隣に『辛さ炸裂!』という謳い文句の書かれた新商品を見つけ、俺は悩まずにふたつとも買った。 達規は新商品に弱い。そして激辛と聞くと食べたがるくせに、そんなに強くはないからすぐ涙目になる。前にもそれで辛口のカレーパンを半分くらい押し付けられた。 達規が両方食うならそれでいいし、どちらか余るなら俺が部活前にでも食う。 それにしても、コンビニの商品入れ替わりの早さには時々目を見張るものがある。逆にずっと変わらず店頭に並んでいる定番カレーパンも、これはこれで凄い。 そんなどうでもいいことを考えながらレジを済ませ、店をあとにした。今日もいい天気だ。

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