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#7-4
廊下に出るなり佐々井に「誰あれ」と聞いてみると、ん? と肩越しに一瞬振り返ってから「あー、ハナマルちゃんな」と解答がある。果たして佐々井の知らない女子というのは学年に存在するのだろうか。
「はな……?」
「何だよ、気になんの? 水島の好みとちょっと違くね?」
「いや、そうじゃねーけど」
短すぎる髪型にインパクトがあるし、何となく見覚えはあるような気がしたが、別にそういう意味で聞いたわけじゃない。達規と距離が近そうだったから聞いてみただけだ。
達規は他の女子ともそれなりに仲が良いが、さっきの会話の雰囲気は、何かが他と違った。
「華丸 ちとせちゃん、可愛いけど、ちょっと個性派っつーか。でもあの子、ぜってー達規のこと好きだぜ、ちょいちょい絡みに来てる。見たことねえの?」
「知らねえ」
席替えがなければ一生気づかなかったかもしれない。自分のそういう事への無関心ぶりを改めて自覚させられた。
放課後の騒めく廊下を抜け、靴を履き替える。踵の潰れたスニーカーを引きずりながら佐々井が言う。
「付き合えばいいのに。なんか雰囲気似てるし」
「そうか?」
「華丸ちゃん頭いいし、お似合いだって。達規も個性派の子好きって言ってたじゃん」
それは確かに言ってたが。お似合いかどうかはわかんねえけど。
そうか、あの子は達規のことが好きなのか。
達規もあの子が好きなんかな、だから雰囲気違ったんだろうか。それなら納得もいく、か?
すでに若干ぼやけかかっている、黒いショートカットと切れ長の大きな目、濃くて長い睫毛。その横にプリンになりかけの茶髪を並べてみた。
一緒に映画を観てポップコーンを食べているのを想像するうち、脳内でふたつのシルエットが小柄な黒猫とキツネになる。
お似合い、なんだろうか、これは。
不思議とあんまり愉快な想像ではなかった。
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