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#7-5
いつの間にか、日の暮れるのもすっかり早くなってきた。六時過ぎにはもう夕陽が夜の帳に滲んでしまう。
雲の白さ高さとか、不意に肌を舐めていく風とか、木の葉が揺らされる音とか、そういうものが足並みを揃えてしっかりと秋めいていく、この季節の感じが苦手だ。
部活が終わる時間になってもまだ、昼間に焼きついた熱がピッチには仄かに残っていて、いつまででもボールを追っていられるような気がする、そんな夏が去っていく。
高校の三年間をそろそろ折り返す俺たちは、日々が光の速さで過ぎていくのを確信をもって感じているのに、それを重ねやがて辿りつく終わりは、まだ遥か対岸だと思っている。
夜風にさわさわ鳴る木立の下を、ギアを落とした自転車で緩やかに走り抜ける。
明日は土曜日だ。
帰り着いた自宅の玄関を開けると、いつものように巨大な毛玉が飛びついて、……来なかった。
「遅いんだよォ。バカ弟ぉ」
「……は?」
居間から現れたのは姉の樹里 だった。膝上のスカートを穿いた裸足の足に、毛玉もとい福助がじゃれつきながら、一緒に出迎えられる。
何でいるんだ。ふざけんな。
「帰って来るの、明日じゃなかったのかよ」
「バイト休みになったから早めたの。喜びなさいよぉ」
「喜ばねえよ。アホか」
いつも俺が鞄を放っているところに、ちょうど姉貴のボストンバッグが置かれていた。仕方ないのでその横に並べる。
悔しいことに福助は姉貴が大好きだ。俺との散歩は前から日課だったというのに、春に姉貴が家を出て以来、姉貴が帰ってくるとべったりくっついて離れないようになった。薄情な奴だ。
一応、福助に向けてリードをちらつかせてみるが、尻尾を振りはするもののやはり来る気配はない。
しょうがねえから今日のランニングは一人だ。さっさとシューズを履き替えて出ようとすると、姉貴にガラの悪い声で呼び止められた。
「ちょっと。お姉様が待ってたっていうのに、何スルーしようとしてんのぉ」
「ああ? ンだよ、俺は走りに行くんだよ」
「相変わらずバカ。脳筋かよ。いいからちょっと待ちなさいって」
パタパタとスリッパを鳴らしながら寄ってきたと思ったら、靴紐を締めていた俺の背中にくっついて座ってきた。
久々に嗅ぐ、やたら甘臭い香水の匂い。まだそれ使ってんのかよ。男ウケ悪ぃぞっつってんのに。
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