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#8-7

それから達規は少しだけ、自分の話をしてくれた。 あまり他人に踏み込まず、自分の内にも入れようとしない。見えにくいが確かな線を引いている、俺から見た達規はそういう人間だったので、それはとても珍しいことに思えた。 「元々ゲイってわけじゃないんよ、普通に女の子が好きだったし」 相手の男――達規は名前を言わなかったが、おそらく保科、で間違いないのだろう。 小学校の頃からの知り合いで、向こうから迫られたのだという。 「俺にとっては、お兄ちゃんみたいな人で。俺、兄弟いねーし、すげー懐いてたんよね。……拒んだら嫌われる、って思ったら、怖くてさあ」 あの日、学校で事に及んだのも、呼びつけられてのことだったらしい。 賢いはずの達規が、考えなしにそういう要求に応じるとは、俺にはとても思えなかった。 「誰かに見られたの気づいて、マジ終わったって思ったよね。すぐ拡散されて居場所なくなると思ったもん」 言いふらされるか、さもなければ脅されるか。あれから数日間は震えながら過ごした、とどこまで冗談なのかわからない顔で達規が笑う。 「学校で男同士はナシだよねえ、マジで。水島のトラウマになってなくてよかった。グロいもん見せて悪かったと思ってます。本当ごめんなさい」 「……いや、いいから、そういうの」 本当にそう思ってはいるのだろうが、どこか白々しいような口調と仕草で頭を下げてみせる。 その様子だけでも、あれが達規の望んだことじゃなかったのは十分すぎるほど汲み取れた。 じゃあ、そもそもそいつとの関係は。 付き合ってたのか、一時的なものだったのか、それとも……今も、続いているのか。 俺はここへきて尚、聞くのを躊躇ってしまう。 達規が片手を振って「ごめんね、もうやめる、この話」と肩を竦めた。 「聞きたくないっしょ、こんなの。ごめん。水島がいい奴すぎるからさあ、なんか喋っちゃったよ。包容力カンストかよ」 冗談めかして言いながら、揺らいで見えた壁をまた綺麗に高く張り直す。 達規はこういう人間なのだ。 放っておいたらきっと、どうでもいいことばかり喋って、大事なことはその壁の向こうに隠してしまう。 「よし、暗い話やめて勉強しよ! 今何やってたん、英語? わかんないとこあったら教えるし」 「聞きたくないなんて思ってねえよ」 だから、話を打ち切りにしようとする達規の言葉をあえて遮って、俺は言った。達規が僅かに目を瞠って口を噤む。

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