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#9-3
学祭が二日後に迫った今日は、すなわち、運動部が部活停止になる日だった。
今日と明日は部活がない。そして明後日も学祭本番だから、当然ない。
朝練禁止の通達はないので、放課後にできない分、朝練は六時から行われた。しかしそれでもせいぜい二時間。
いつもの半分ほどの時間しかサッカーができない。
「また部活できないからってしょんぼりしてんの?」
俺の机に頬杖をついたいつもの体勢で達規が言った。
片手に持ったポッキーの箱は朝飯代わりらしいが、それで昼までもつとは思えない。達規の偏食はもはや俺には理解できない域だ。
「うるせえ、しょんぼりとか言うな」
「ほんと部活好きすぎじゃね、お前」
仕方ねえだろ、学校には部活しに来てるようなもんなんだから。
不貞腐れる俺を正面から眺める達規は、目を性悪な色に輝かせてにやにや笑っている。
「元気出せって。ほら、ポッキーやるから」
一本摘んで差し出されたそれを、黙って口で受け取る。噛み砕くと室温で少し軟らかくなったチョコの甘味が広がった。美味いが決して元気の出る味ではない。
「学祭は学祭で楽しいじゃん?」
「それとこれとは別なんだよ」
「佐々井なんかめっちゃ学祭張り切ってっけど」
「あのアホと一緒にすんな」
同じサッカー部ではあるが、佐々井は目に見えて学祭を心待ちにしていた。
理由は火を見るより明らかで、工藤と一緒に回る約束をしたから。
「水島はねーの、そういうの」
「あ? そういうのって何だよ」
「一緒に回ろうね、みたいな」
「あのな、あると思うか?」
女子の連絡先なんかマネージャー以外一人も知らないし、会話も必要最低限しかしない。そんな奴にそんな相手がいるわけないだろうが。
達規は聞いておいて興味なさげにふーんと鼻を鳴らしながら、
「水島のこと誘いたい奴はいると思うけどね」
そんなことをぼやいてポッキーを口に運んだ。
予鈴と同時に担任が教室に入ってきて、立ち歩いていた生徒が一斉に席へと戻っていく。達規も封が開いたままのポッキーの箱を鞄に突っ込んで、さっさと前を向いた。
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