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#9-4

放課後になると、校内はフライングで学祭が始まったかのように賑わいだした。 今日と明日で設営を完了し、明後日が本番。とは言え通常の授業は明日もあるので、うちのクラスのように教室をまるごと改造するような出展では、明日が正念場だ。 「この紐があそこの仕掛けに繋がってるから、お客さんが通るタイミングで動かすの」 机を並べて通路の配置を確認しながら、俺たち裏方係の役割分担をしていくのは副委員長の高木だ。 クラスでは達規の次の次くらいに成績が良くて、女子バスケ部のレギュラーで、脚がすげー速い。 「当日は通路側は真っ暗だけど、裏は足元にライト置いてあるから。で、この穴から通路が見えるようになってるからね」 きびきびした物言いで仕掛けの説明をしていく姿はリーダーらしくて好感が持てた。部活も忙しいだろうに、学祭の準備も積極的に動いていて、当日の動きを全部把握している。 佐々井が前に「高木ちゃんはハキハキしすぎてちょっと怖い」と言っていたが、俺はそのくらいの方が気持ちよくて好きだな、と思っていた。 「はい、これ当日のタイムテーブルね。脅かし役は時間交替だから、ちゃんと守ってね。各自で交換とかはご自由にどうぞ。それに書いておいてね」 A4の紙一枚に、きっちりした手書きで役割毎の時間組みが記されている。 だいたい二時間くらいの割り当てのようだ。 俺はちらっと見るだけにしたが、佐々井は目を皿のようにして覗き込んでいる。工藤との約束があるからだろう、真剣だ。 「お、達規ほんとに受付になってる」 何気なく佐々井が呟いたので見ると、確かに受付の欄に達規の名前があった。三人で回すらしく、結構時間が長く設定されていて、あと二人は女子。 「つーかこれ、受付もメイクすることになってねえ?」 「ほんとだ。あいつもお化けになんのか?」 想像してみる。吊り目の周りをパンダみたいに黒塗りにして、頬に血糊。でも耳にはバチバチにピアス、頭は茶髪。 「全然怖くねえな」 「ホラー映画で最初に死んだ軽率なヤンキーだな」 翌日は最後の授業の時間からぶっ通しで準備に入った。 窓に遮光板を貼り、机と仕切り板で通路を作っていく。仕掛けをセットしながら動線の確認と、裏のライトやBGMを流すラジカセの位置の調整。 教室の外の廊下にも作り貯めた装飾をつけていくと、かなりそれらしい雰囲気になった。 壁にはお札や赤い手形のついた暗幕を貼り、入り口に例の鳥居が立てられる。 神社で行われる肝試しをモチーフとしたお化け屋敷で、照明を落とすと教室内はびっくりするほど暗くなった。

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