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#9-5
「すげー」
「暗っ、怖っ」
「じゃ、予行練習しよっ」
各自が持ち場につき、何人かが順路を歩いて、脅かし方や通路の最終確認。
暗闇の中でタイミングを合わせて仕掛けを動かすのは結構難しい。
試行錯誤しながら練習していたら、達規が順路をやって来た。
懐中電灯を手に、全く怖がる素振りもなく平然と歩いてくる。当たり前か。
偶然にも俺の担当する仕掛けは、達規の作った生首マネキンだ。日本人形が血の涙を流しているような顔で、かなりエグい出来。
俺が紐を手離すと、宙吊りになったそれが上から落ちてきて、達規の目の前にぶら下がる。
達規は「うわっ」と控えめなリアクションをしてから、立ち止まって「おおー」と自作の生首にライトを当てた。
「まじまじ見んじゃねえよ」
「お、その声は水島じゃん」
「いいから早く先進めって」
段ボールの壁越しに会話。真面目にやれと高木に怒られそうだ。生首マネキンを引き上げながら、順路を進む達規を見送った。
無事に設営を終え、学祭当日を迎えた学校は、朝から非日常的な空間と化していた。
校門から昇降口までの間にも簡易ステージが組まれ、その周りに屋台スタイルでの出展が三クラスほど。もちろん校内も慌ただしく賑わっている。
俺が登校したときには、すでに何人かのお化け役が完成していた。
裏方と客引き部隊も全員フェイスペイント必須だと言うので、メイク係の女子の前で順番を待つ。
「水島おせーよ」という声に振り向くと、すでに顔半分を血糊まみれにした佐々井が立っていた。
「お前、その顔で工藤と会うのかよ」
「控えめにしてくれって言ったんだけどさ、振りだと思われてさ……いや、横山さんはそのノリの良さがいいんだけど……」
女子に血糊を塗りたくられて断れずにヘラヘラ笑っている佐々井の姿が目に浮かぶようだ。俺は横山以外の奴にやってもらおうと心に決め、ひっそりと列を移動した。
そのとき、視界の端に見慣れた茶髪が現れた。何も考えずに目線をやって、……二度見。
「あ?」
「えっ」
俺の声に釣られて、佐々井も後ろを振り返る。周りの奴も何人か、そっちに目をやった。
「うわ、達規、何それ。狐?」
佐々井の声に思いっきり眉を顰め、唇をへの字にひん曲げる、その顔面には歌舞伎の隈取のような赤いラインが数本引かれていた。
そして身に纏っているのは、くすんだ赤色の着物のような衣装。
コスプレ的な狐メイクを完璧に施された達規が、不本意、を絵に描いたような表情で立っていた。
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