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#9-9

スタートからぶっ通しで受付に立っていた割に、あまり食う量の多くない達規はチョコバナナでそこそこ腹が膨れたらしい。 道中で売っていた、クソ甘そうなタピオカドリンクだけ買って、俺たちは一緒に体育館へと向かった。 「何見んの?」 「んー、軽音楽部」 ステージではクラス出展の劇やショーの他に、吹奏楽部やダンス部なんかの発表もある。軽音楽部は確か三組くらいのバンドの演奏があったはずだ。 「友達がさあ、軽音じゃないんだけど、誘われて出るって言うから」 「ふーん」 ずる、からん、ずる、からん。 隣を歩く達規の足音が、下駄を履いているせいで独特だ。 サイズが合っていないらしく、踵の後ろも横幅も余っている。 鼻緒でつっかけるような状態で歩いているから、底が床に擦れるずる、という音がする。歩きづらそうだが、達規は平然としていた。 赤い着物に狐メイクの達規と並んで歩くと、佐々井と二人のときとは比にならないほど目立った。黒い帯を締めた腰のあたりが、心配になるくらい細いことに気づく。 体育館が近づくと、ちょうど転換中らしく、無秩序なドラムやらギターの音が漏れ聞こえてきた。人の行き来も多い。 ステージ以外の照明の落とされた体育館は、他とは違う湿度の高い熱気がこもっていた。 「あ、ちょうどよかった」 ステージ上には四つの人影。達規が見たかったのはこのバンドらしい。 奇を衒った衣装ではなく、普通に制服姿の男子が四人、各々の楽器のセッティングをしていた。 しかし、体育館の真ん中あたりまで進んでステージに近づくと、ある違和感に気づく。向かって右手に立つ、黒いギターを抱えた生徒。 他のメンバーと同じく男子の制服を着てはいるが、遠目に見ても明らかに小柄だ。 幅の余ったスラックス。見覚えのある、油揚げみたいな色のカーディガンと短い髪。 「あれ、女子だよな? ええと、……あ、ハナマル?」 確か華丸ちとせ、じゃなかったか。前に教室で達規を映画館に誘っていた。 佐々井の言っていた通り、彼女と達規が教室や廊下で一緒にいるのを、あれから何度か見かけた。 電気を通して拡大された音に掻き消されないよう、少し声のボリュームを上げて言うと、達規は意外そうな顔を俺に向けた。 「あれ、ちとせ知ってんの?」 「いや……顔と名前だけ」 「水島が女子の名前覚えてるなんて珍しいね」 「……なんか、覚えやすい名前だったし」 確かに、と達規は笑った。 友達って華丸のことだろうか。あのカーディガンも達規のに見える。 思いながらも、何となく口にはできず、それきり黙って俺はステージに視線を向けた。

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