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#9-10
やがて音出しが終わると、真ん中の奴がスタンドマイクの前に立った。
短く挨拶をすると、ステージの前から野次に近い声が飛ぶ。たぶん同じクラスの奴か軽音部仲間なのだろう。
華丸の名前を呼ぶ声もあったが、本人はあまり反応せず足元の機械をいじっていた。
マイク越しの声が俺の知らない曲名を告げて、短い拍手が沸き起こった直後、華丸の右手が顔より高く振り上げられた。
袖丈の余ったキツネ色のカーディガンから、細い手首が一瞬だけ覗く。
急降下したその手が、弦を叩き斬りでもするようにギターの中央あたりを跳ねると、耳を劈 く鋭い和音が体育館を走り抜けた。
華丸の黒いギターは、名前などわからないが、小柄な身体には不釣り合いに見えそうなほどゴツい形をしていて、しかし不思議と似合っていた。
そこから飛び出した弾丸のような音、太くて尖った鮮烈な音が、空気を、壁を、天井を震わす。
それは花火の音のように。
他の三人のパートが一斉に加わると音量が増して、どれが華丸の音なのか、俺にはすぐに聴き分けられなくなった。耳から感電してしまいそうな音の滝に打たれる。
ボーカルが入るとほんの少しだけ流れは穏やかになって、サビに向けてまたじわじわとボルテージを上げていく。
ステージに群がる観客の拳が上がり、始まる前は無表情に近かった華丸の、大きな瞳が輝く。
曲名も歌詞のフレーズも何も知らなかったその曲は、あっという間に終わった。
歓声と拍手。指笛。隣で達規もタピオカドリンクの容器を持ったまま器用に両手を叩いているのに気づいて、俺も慌てて手を打った。
続いて演奏されたのは一曲目よりもややスローなテンポの曲で、それが終わると達規は拍手に紛れてこっちを向いた。
「俺、もういいけど、最後まで聴く?」
ステージの照明に横から照らされた顔を見返しながら、俺は首を横に振る。
もともと達規の付き合いで来たのだし、華丸以外の三人も特に話したこともない面子だ。
達規は頷いて踵を返し、下駄をかたかた言わせながら体育館をあとにした。
「最後まで観なくていいのかよ」
「ん、いい。ちとせ見れたし」
ミルクティー色のドリンクを太いストローで啜りながら達規はあっさり答えた。
やっぱり華丸を見に来たのか、と思ったら、疑問がひとつ解けたのに、なんとなくすっきりしない気分になる。
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