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#9-12
十六時、チャイムが鳴った。
続いて響き渡るアナウンス。一般公開終了の時間だ。出歩いていたクラスメイトもほとんどが教室前に集合している。
最後の客だったカップルが笑い混じりの悲鳴と共に出口から転がり出てくると、自然と拍手が沸き起こった。
準備期間およそ一ヶ月の祭りが終わる。
程良い疲労感と興奮を残したまま、撤収作業に入った。
教室内の照明を点けると、まだ外されていない通路の枠組みや仕掛けが煌々と露わになる。
今朝と同じ状態のはずなのに、所々の破損や、悲鳴を吸った黒いビニールや段ボールが、試合後のピッチみたいな漠然とした荘厳さを感じさせた。
「三十分後に体育館で閉会式的なヤツね。それまでに大物はバラしちゃおう。そのあとはクラスごとに順次解散で、打ち上げの予約が六時だから、全員間に合って行けるように撤収作業、ちゃきちゃき頑張ろ!」
副委員長の高木がさすがのリーダーシップで仕切っていく中、教室を異空間にしていたものが次々と外され、解体されていく。
窓を覆う遮光板を剥がしていくと、まだ夕焼けの色になる前の、傾いた白い太陽が差し込んだ。
結局一時間余りで撤収作業はほぼ完了し、男子は手洗い場で次々に顔を洗ってペイントを落とした。
達規の狐メイクは水では落とせず、女子からシート状のメイク落としを貰って、ぶつくさ言いながら拭いていた。
打ち上げはクラスの八割が参加と聞いている。担任も来るし、場所は鉄板焼屋、極めて健全なやつだ。
少し距離があるから、電車やらバスやらチャリやら、各々勝手に移動して現地集合になっている。
「水島、チャリだろ? 俺も今日チャリで来た!」
最高潮に浮かれっぱなしの佐々井が言ってきた。
工藤との学祭デートに大変満足したらしい。同行すれば道中延々と話を聞かされることは目に見えているが、まあ慣れているので断るには至らない。
「達規は? 何で行く?」
佐々井が声をかけると、制服に着替えて戻ってきた達規は、考えてなかった、と答えた。
「バスかなあ」と言うから、「チャリの後ろ乗れば?」と何の気なしに言ったら、目を丸くされた。
「いいの?」
「いいよ別に」
行き先は一緒なんだし。達規がいてくれれば、佐々井の惚気話に相槌を打つ係を丸投げできて楽だし。
「よっしゃ、決まりな! 行くか!」
「まだ早すぎだろ」
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