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#9-13

かなりフライングで打ち上げ会場の店に着くも、俺たちよりさらに早く到着していたグループもいて、打ち上げは時間通りにスタートした。 クラスの奴らと外でメシを食っている、ただそれだけなのに、非日常感というものはやっぱり空間の熱量を上げさせるようだ。達成感と解放感。 ドリンクバーで闇ミックスジュースを作る、お決まりのバカみたいなイベントですらやたらと盛り上がった。 しばらく飲み食いして、ふとスマホの画面で時間を確認すると、開始から一時間半ほどが経っていた。 そろそろお開き、の声がどこからともなく起こる。 荷物を手にして靴を履き、店の外に出ると、空はとうに真っ暗なのに、立ち並ぶ店の照明で辺りは明るかった。 いかにも夜の繁華街、という感じがして、高校生の集団である自分たちは些か場違いな気がしてくる。 「二次会カラオケ行くぞ、カラオケ!」 後方のグループがそう盛り上がっているのが聞こえた。何気なく見ると、その輪の中に佐々井の姿もあった。帰りは別々になりそうだ。 解散の合図がかかり、ほとんどひとつの塊になっていたクラスメイトたちは、徐々にいくつかに散らばっていった。 半分くらいは二次会に行くようだが、帰宅組、その中でも電車を使うグループはさっさと駅に向かって歩き始めていた。 店の前に停めていたチャリの鍵を開けている俺の後ろに、達規が寄ってくる。 「帰んの、水島」 「帰る。カラオケはダルい」 「はは、わかる。俺もやめとくわ」 ポケットに手を突っ込んだ達規と、自然と一緒に歩く形になった。達規の家の場所は知らないが、途中まで同じ方向なのはわかっている。 酔っ払いのグループや、仕事帰りらしい人々の間を並んで歩いていると、七夕祭りの日を思い出した。あの日も最初は佐々井と三人だったのに、最後は俺と達規だけになったな、と思う。 「水島ぁ、楽しかった? 学祭」 前を向いたまま、のんびりした口調で達規が言った。 「あ? まあ、楽しかったよ、普通に」 「そりゃよかった」 「お前楽しくなかったの」 「楽しかったよ。去年より楽しかった」 「そりゃよかった」 わざと同じ言葉を返したら、ふは、と笑った。それきり会話が途切れるが、達規とのこれは俺にとって、嫌な沈黙ではなかった。 信号待ちで立ち止まったとき、達規が「はー」と溜め息をついた。そして軽く空を仰ぎ、呟く。 「帰りたくねー」 俺は達規の横顔に目を向ける。道路の向こうの赤信号でも、切れかかって点滅している街灯でもなく、もっとどこか遠くの方を達規は見ていた。 これも、あの祭りのときと同じだ。 「行けばよかったじゃねえか、二次会」 「んー、俺もあんま好きじゃないんよねえ、カラオケ」

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