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#9-14
信号が青に変わる。動き出す車のライトを横目に、横断歩道の白黒を踏んでいく。
土曜日の夜八時前だ。高校生はともかく、大人にとってはさほど遅い時間ではないのだろう、アーケード街はまだピークを迎える前といった雰囲気の賑わい方をしていた。帰路につく人より、中心街の方へ歩いていく人の方が多い。
その波をすり抜けるようにしながら、俺たちは殊更ゆっくり歩いた。
「あ」
角の本屋がふと目に入り、声が漏れた。読みたかった雑誌がもう発売になっているはずだ。
本屋寄っていいか、と聞くと達規は頷いた。チャリを停め、自動ドアを抜ける。
「水島、本屋似合わねーなあ」
並んでついてきた達規の軽口を受け流しつつ、スポーツ雑誌のコーナーへ真っ直ぐ向かった。
目的の表紙はすぐに見つかり、ついでにサッカー関連の雑誌を手にとってぱらぱら捲っていると、達規も勝手にどこかへ行った。
あいつは活字びっしりの小難しい本でも読むんだろうか。専門書とか、超高校レベルの参考書でも見ているのかもしれない。
達規が何を読むのか少し興味があったので、あとで聞いてみよう、と思う。
雑誌を二冊と、漫画のコーナーで一冊。
買うものが決まったのでレジへ行く前に達規を探すが、なかなか見つからない。
文芸書、専門書、ライトノベルや少女漫画の棚まで探して回ったが、茶髪頭はどこにもいない。
外で待っているのかもしれないと考えて、会計を済ませ店の外へ出た。
案の定、達規の姿はそこにあったが、店のすぐ前ではなく少し外れたところで、ガードレールに腰掛けるようにして俯き気味に立っている。
その手にはスマホがあって、通話中のようだった。
なるほど電話が来たから外へ出たのか、と納得して、チャリを解錠しつつ電話が終わるのを待った。
しかし、しばらく経っても耳からスマホが離される気配はない。
待つのは構わないのだが、ちらっと伺うと、どうも達規の様子が変な気がした。
表情が見えづらいが、笑顔はなく、世間話をしている風でもない。アーケードの照明の下にいるのに、顔色が悪く見える。
何かあったのかもしれない。
その上、俯きっぱなしの達規は、どうも俺に気づいていないようだった。
ひとまず合図だけでも送ろうかと、チャリから離れ数歩近づいたところで、声が耳に届いた。
「……や、だから、無理だってば」
苛立ったような、それでいて途方に暮れた様子の、達規の声。顔の右側に押し付けられたスマホの画面が、血の気の失せた口元を無機質に照らし出している。
「まだ打ち上げ中だし、……俺、まだいたいし。もう今日は無理」
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