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#10-4

沈黙に耐えかねたのか、やがて達規がひとつ大きく息を吐く。 「……水島、引いてるっしょ」 「いや、……引いてねえよ」 嘘じゃない。飲み込むのに時間がかかっているだけだ。だからちょっと待て。 「言わせたのお前だかんな?」 「わかってるっつーの」 達規のことを知りたかったのに、知った分だけ遠くなったような気がして、俺は今、その距離について考えるので頭がいっぱいだ。 気の利いたことも、知ったようなことも言えない。達規が語ってくれた十七年を軽んじることだけはしたくなくて、でも、受け止めた上で何かを伝えるには、俺の十七年では薄すぎる。そんな風に思えてしまった。 そうして俺が何も言えないでいるうちに、達規の右のポケットから、ピコン、と電子音が零れた。 スマホを取り出す横顔をそっと盗み見る。 冷たいほどの無表情で、恐らく通知が表示されているであろう画面にほんの四、五秒間だけ視線を落とした達規は、何もせずにそのままスマホをポケットへ戻した。 誰からのメッセージだったのか、長い溜め息を漏らすその様子から、察してしまえるのが嫌だった。 「なんかね、最近は、……家呼ばれても、行きたくねえなあ、ってなるんよ」 話しながら達規は、ずっと手の中にあったコンポタの缶を、片手で握り直して緩く振った。 「さすがにもう、一人でも寝れっし。まあ、行ったほうが結局、俺もよく寝れんだけど……なんかさあ、やっぱ、おかしいのはわかってっし」 プルタブを押し上げたあとの、場に不似合いなほど軽快な、ぷしゅっという音。とっくに冷めたに違いないその中身を一口呷る。 「わかってんだけどさあ」 ゆっくりした口調で零すのが聞こえたとき、俺の頭の中でぐちゃぐちゃに絡まっていたものが、一ヶ所だけ、ほんの少しだけ。ふっと弛んで向こう側が見えた、ような気がした。 「お前さ」 深く考えるより先に声を出す。 さっきまでは、思考がまとまらなくて何も言えない、と思っていたけれど。 今は早く口にしないと、糸の弛んだ感覚が離れていってしまう、そんな真逆の焦りがあった。 続いた言葉は、だからもう、無意識にも近かった。 「今日うちに泊まれ」 「…………」 少しの間をおいて「は?」と声をあげながら弾かれたようにこっちを向く、達規の素っ頓狂な反応と同じくらい、俺も自分に驚いていた。 同時に、長いこと自分の中にあったモヤモヤの正体がわかって、納得してもいた。 俺は、ずっと後悔していたのだ。 ここで一緒に花火を見たあの日、達規をあのまま帰したことを、心のどこかでずっと。 その後悔の念は時々、暗雲のように頭の中に立ち込めたり、胸のあたりで膨張して息苦しくなったりして。 その原因が今、俺はやっとわかったのだった。

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