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#10-7
「……すげえな」
「え?」
「どうやったら一瞬でそんなに懐くんだよ」
達規は屈んで福助の頭や背中をもふもふ撫でながら、不思議そうな顔になって首を傾げる。
「え、いつもこうなんじゃねーの?」
「知らない奴にそんなんしねえよ」
「マジ? 福助、めっちゃ人懐こい子なのかと思った」
咬むことはないが、吠えるくらいはする。それがどうだ。尻尾までぶんぶん振りたくって、初めて会う相手に興味をもってはしゃいでいるとか、そういう次元を超えている。遊んでくれと飛びついてくるときのやつだ。
もしかして姉貴と同じ髪の色だからか? と、バカなことを考えてしまったりした。
俺はとりあえず部屋着のジャージに着替え、達規は制服のままでしばらく福助とじゃれていた。犬を飼っていただけあって扱いは手慣れている。
キツネ色のカーディガンの色が、柴の福助とほとんど一緒だ。
「ふは、ちょ、福助。重いんだけど」
福助の尋常じゃない懐きように微妙なジェラシーを感じたりもするが、さっきまでどこか神妙な様子だった達規が楽しそうにしているので、まあいいか、ということにする。
「お、こらこらこら、ダメだって!」
ふと見ると、福助が達規のカーディガンの裾に鼻先を突っ込んでいた。内側に潜り込もうとする動きでシャツまでめくられ、脇腹が覗く。ふんふん匂いを嗅がれて擽ったいのか、達規はけらけら笑いながら攻防戦を繰り広げていた。
なんとなく面白くなかったので、後ろから福助を抱き上げて引き剥がす。機嫌よく尻尾を振り続けたまま、少し俺の腕の中で大人しくしていたが、やがてもぞもぞと抜け出て再び達規にくっついていった。
部屋のドアがノックされ、母が顔を出す。返事する前に開けんなって何回言ったらわかるんだ。
片手にお盆を持っていた。俺の方には見向きもせず、福助を膝に乗せた達規に「なにくん?」と尋ねる。
「あ、達規です」
「タツキくん、梨好き?」
「え、や、お構いなく……」
「食う」
立ち上がってお盆を受け取る。梨の並んだ丸皿と、細いフォークと、麦茶のコップがふたつ。
「ちょっと、何あんた、座布団も出さないで!」
「あっ、いや全然、大丈夫デス」
達規の声など聞かず、バタバタと足音を立ててどこからか座布団を持ってきた。ぺこぺこ頭を下げながら達規が受け取る。
「お風呂は入るでしょ?」
「あー、入るな。バスタオルとか俺のでいいか?」
「あ、うん、アリガトゴザイマス」
母が去ったドアを見上げながら、達規はちょっと笑った。
「水島のお母さんってさあ、“お母さん”って感じ」
「よくいるタイプのババアだからな」
口悪ぃ、と苦笑しながら、達規は梨にフォークを突き立てた。
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