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#11 fever
部活漬けの日曜日と振替休日を過ごし、朝練なしの火曜日、朝からついてなかった。
まず寝起きで目覚まし時計が頭の上に降ってきたし、一度着たシャツに水を零して着替える羽目になったし、通学中にチャリがパンクした。
ガラスの破片でも踏んだのだろう。
家を出たのはむしろ早めの時間だったのと、学校のそこそこ近くまで来てからだったのが不幸中の幸いではある。チャイムの鳴る少し前には教室に入ることができた。
しかし弁当を忘れた。購買は混むから嫌いなのに。
続く不運にうんざりした気分で席につくが、前の席は空だ。
達規がまだ来ていない。それに気づいたところでチャイムが鳴り響いた。
担任が入ってきて、朝のホームルームが始まる。「達規は欠席か? 誰か聞いてないか」という言葉から、学校にも連絡が来ていないことを知る。
珍しいな、と思う。同じクラスになって以来、俺の記憶が正しければ、達規が休んだことはなかった。
結果的には達規は来た。
ホームルームが終わり、一限開始のチャイムが鳴るのとほぼ同時に、俺の席の真横の戸をガラリと開けて現れた。
目が合うと「これ遅刻かな? ギリギリセーフよな?」と言って笑い、あまり焦ったふうもなく教室へ入ってくる。
一限の教師がまだ来ていないから、たぶんギリギリ遅刻扱いにはならないだろう。そんなことより、様子がおかしい。
足元がふらついている。明らかに顔が青白い。椅子を引いて席につく動作も、どこか鈍くてぎこちない気がした。
「おい、お前、大丈夫か?」
後ろからそう呼びかけると、首だけで振り返る。
「大丈夫、ちょっとだりいだけ」
「ほんとかよ。顔色やべえぞ」
「はは、マジ? 気にすんなって」
大丈夫、と繰り返す声に力がないし、目の焦点が合っていないような感じがある。
保健室行け、と言おうとしたところで、教室前方の戸が開けられた。数学教師が教壇に立つ。
達規はもう一度「大丈夫だから」と言って、前を向いた。それ以上追及することもできずに授業が始まる。
授業中、意識せずとも視界に入る後ろ姿は、別段変わった様子はなかった。ノートをあまり取らないのも、やる気なさげに頬杖をついているのもいつものことだ。
しかし、それはやはり格好だけのものだったらしい。
一限が終わり、ロッカーにでも行こうとしたのだろう。立ち上がった達規の身体が、俺の目の前で大きく前傾した。
倒れる、と思ったときには手が出ていて、そのまま崩れた達規の上体を支える形になる。
膝をつき、力の入らなくなったらしい達規の身体は、触れてわかるレベルで熱かった。
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