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#11-2

意識はあるがふらついて歩けない達規を抱え、保健室まで連れて行く。 体温計を受け取った保健教諭は「三十九度」とその数値を読み上げた。 「朝からこんなに熱あったの?」 「……測ってないんでワカリマセン」 座った椅子の背にぐったりと凭れかかりながらも、達規は強がりなのか何なのか、不遜な口調を崩さなかった。 朝は青白かった顔は、今は熱のせいか紅潮しており、どことなく虚ろな目も潤んでいる。 女性の教諭は溜め息をつき「帰りなさい」と言い放った。 「こんな状態で学校来ちゃだめよ。インフルエンザの可能性もあるから、すぐ病院行きなさい。おうちに電話する?」 達規は眉を顰め、ゆるゆると首を横に振る。 「帰りたくない」 「ダメ。他の生徒に伝染っても困るんだから」 「インフルじゃないんで大丈夫デス」 「検査しなきゃわかんないでしょ。どっちにしても、授業受けられる状態じゃないじゃないの」 「……じゃあここで寝てちゃダメですか?」 「ダメ」ぴしゃりと跳ね除けられ、達規はついに口をへの字に曲げた。 子供みたいに膨れるが、何を言っても自分の要求が通らないことを悟ったのだろう。ややあって肩を竦めると、ワカリマシタ、と呟いた。 「うちに電話は、しなくていいです。誰もいないし、……自分で病院行くんで」 「そう、わかった。本当に行くのよ? タクシー呼ぶ?」 達規は再び首を横に振る。保健教諭が立ち尽くしていた俺に顔を向け、 「君、彼の荷物、持ってきてあげてくれない? 先生にも伝えてあげて」 そう言うので頷いた。保健室を出る間際、ぼんやりとこっちを見る達規と目が合った。 チャイムが鳴り、教室ではすでに二限の授業が始まっていたが、教師に断って達規の鞄を手に再度保健室へと戻る。保健教諭の姿はなくなっていた。 「無遅刻無欠席だったのに」 差し出した鞄を、達規はむくれ顔で受け取る。一瞬だけ触れた手がやっぱり熱くて、俺は心配を通り越して呆れた。 「お前、何で来たんだよ。明らかにおかしかっただろ」 教室で倒れるのも十分まずいが、もし学校に辿り着く前に外で倒れたりしていたら、どうなっていたことか。こいつの頭でわからないはずがないのに。 達規は伏せた目を泳がせ、諦めたような息をひとつ吐くと、低く呟いた。 「今日、……母親、休みで。家にいるんよ」

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