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#11-6
「水島、起きねえの?」
低い囁きに絡め取られ、眠りの底から意識が浮上する。
知っている声。達規だ。でもそんなに潜めた声は聞き慣れていない。
腹の上に控えめな重みを感じた。
俺を起こすために達規が福助をけしかけてきたのだろう。顔じゅう舐められてべとべとになる前に起きなければ、と思いつつも身体は動こうとせず、しかしざらついた舌が押し付けられる気配もない。
代わりに頬にひんやりしたものが触れた。するりと滑ってそれが指先だと知れる。手のひらで左頬を包み込まれ、心地良い温度でさすられる。
貼り付けられでもしたような瞼をどうにか上げると、真っ暗な部屋の中、小柄な輪郭がぼんやりと浮かんでいた。
布団も掛かっていない俺の腹部に跨り、淡い笑みを浮かべて見下ろしてくる達規の、両の瞳だけがきらきら輝いている。
「なあ、水島」
吐息混じりに呼ばれながら、頬に添えられた細い手がゆっくり剥がれていく感触を追う。指の先だけが残されて顎のあたりまで伝い降り、名残惜しげな仕草で離れる。
達規が瞬くと瞳の中の星が角度を変え、零れて降ってくるような気がした。部屋は暗いのにそこだけ眩しくて、思わず目を細める。
そんな俺を真っ直ぐに覗き込みながら、達規が囁いた。
「俺のこと好きなの?」
生意気な印象のはずの目が今は蠱惑的ですらあって、そこから視線を外せないでいるうちに、顔が寄せられる。
前髪の先が額に当たり、からからに乾いた唇に、達規のそれが触れる。
熱と湿度が擦り合わせられ、離れたかと思うとまたすぐに重なった。今度は少し長い時間をかけて、下唇を食まれ、歯を立てられる。柔らかく八重歯の食い込む感触。
至近距離にある達規の閉じた瞼を、細かく震える睫毛を俺は見つめる。
しばらく俺の唇を啄んだあとで、達規は上体を起こした。接していた胸が離れる。
投げ出されている俺の右手を達規がするりと掴んだ。もう片方の手では自分のシャツの裾を捲りあげている。
暗闇に浮き上がるように白い腹と臍が覗いたその隙間に、迷いなく俺の右手を招き入れる。
痩せて骨の形が浮いた肌。手触りは滑らかで、内に巡っている血が沸騰しているんじゃないかと思うほど、熱く火照っている。
シャツの中を這う手のひらは、達規に誘導されているのか、俺が自分の意思で動かしているのか。もうよくわからなくなって、その熱さに没頭した。左胸を掠めると大袈裟なほどの鼓動が伝わる。
達規は目を潤ませ、唇から色づいた吐息を漏らした。そしてうっとりと言う。
「水島が、俺をめちゃくちゃにしてくれる?」
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